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トラウマ 3

 翌日出勤してすぐ、相浦先生から報告があった。なんでも、昨夜秀人はパニックを起こして錯乱したらしい。 「眠ったのは確認したので、その後悪夢でも見て起きたのかもしれません。叫び声が聞こえたので看護師が向かうと、もうこちらが誰なのかここがどこなのか、何も認識できないような状態だったそうです。全く落ち着かなかったので、最終的に弱めの鎮静剤を打って寝かせました」 「そうですか、ありがとうございます」  錯乱を起こしたと聞いてもあまり驚かない自分がいる。どちらかというと、やっぱりかという気持ちが強い。昨日のあの感じは、夜にひきずるだろうと思っていたのだ。  今回のパニックの引き金はどう考えてもピアノだ。それとどう向き合うか対応を考えていかなければ、状況は好転しないだろう。 「昨日の話、秀人くんはピアノの話題が出てからああなってるんですよね」  相浦先生が確認するように尋ねた。 「はい」 「ピアノはトラウマで、且つ得意創作。ピアノを弾きたくない気持ちと、得意創作が出来ず満たされない気持ちがあるから不安定なんでしょう。ピアノを弾かなくても得意創作欲が満たされるように支援できれば良いですがね」  相浦先生はそう言うと「では私はこれで」と言って退勤してしまった。  あんまり淡白にまとめて帰るのでもう少し考えてくれてもいいのにと思ったが、秀人の担当医師は俺だ。彼にそこまで要求するわけにはいかない。

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