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しばらく唇をなぞっていた指が、今度は感触を楽しむように表面をプニプニと押す。 「たかちゃん...アッカンベー...して?」 何を求められているのかなんとなくわかって、俺は抵抗にもならない抵抗で頭を小さく振った。 畳を滑るように更に距離を詰めてきた亮治は、鼻先をスリと擦り付けてくる。 「たかちゃん...?」 「だ、誰か来るかもしれんし...」 「もうお茶もお菓子も持ってきてもろうたし、誰も来んよ」 「廊下から見えたら困るし...」 「この角度なら見えんけ、わざわざ移動したんわかっとるじゃろ?」 「お前...ベロチューする気じゃろ...」 「うん。だってぇ、今までそんなチューしたこと無いじゃろ? この浴衣着て、いっつもより大人っぽいたかちゃんと大人のキスしたい」 「......キスだけで済まんかもしれんじゃろうが」 これは亮治の事だけを言ってるんじゃない。 いつもより男らしく大人びて見える亮治に、俺の気持ちが昂っているのだ。 「キスだけ、絶対。約束する」 「お前を信じとらんわけじゃない...俺は、自分が思うとった以上に興奮しとる自分を信用できんだけじゃ」 「うん、ほしたらキス以上の事がどうしてもしとうなりそうじゃったら、急いでホテル戻ろう? もう風呂も堪能したもん...あとは部屋に戻るだけじゃろ?」 ぐっと俺を自分の体で押さえつけ、耳をやわやわと触りながら頬を擦り寄せてくる。 それだけで妙に喉が渇いてきて、俺はゴクンと唾を飲み込んだ。 「ね、たかちゃん?」 こめかみに瞼に頬に、優しく何度も唇が降ってくる。 小さな子供をあやすようなそれに、少しずつ体の力が抜けてきた。 恐る恐る唇を開き、舌の先端を差し出してみる。 「嫌じゃったり、気持ち悪かったら言うてね」 チュッとわざと大きめに音をたてて耳朶を吸うと、亮治の顔が正面にやってきた。 なんとなく恥ずかしくて俺はギュッと目を閉じる。 舌の先に、同じ質感で同じ温度のザラリとした物が触れた。 途端に体の熱が一気に上がる。 舌の先同士がチロチロと合わされ、今度は出ている部分を唇でハムハムと甘噛みされる。 その唇の感触があまりにも気持ちよくて、俺は亮治の肩を掴んだ。 もう少し深い所までその感触を味わいたくて、知らず知らず舌を更に亮治の方へと伸ばしていた。 その舌が、チュルンと吸い込まれる。 熱くてネットリしてる。 けどネバついてるってわけではなくて、全然嫌じゃない。 そこで待ち構えていた亮治の舌が、さっきよりも大胆に強引に動き出した。 固定するように前歯を柔く食い込ませ、表面を裏側を絶えず撫で擦る。 もっと寄越せと吸い上げられ、俺は顔ごと亮治へと近づいた。 今度はしっかりと唇が重なり、亮治の長い腕が俺の後頭部を押さえ込む。 解放された舌が俺の口に戻る前に抉じ開けるように滑り込んできた亮治の分厚い舌が、中を好きに暴れまわった。 頭がボーッとするのに、意思とも意識とも関係なく鈍く疼く下半身。 下着の中でビクビクと震えているのが情けないほどハッキリとわかる。 舌はこんなに敏感だったのか? 他人に口の中を好き放題舐め回されて、それを気持ちいいと思うものだったのか? ただ唇を重ねるだけで十分ドキドキしたし、あんなに興奮できたのに。 キスだけでこんなになってて...これ以上の事なんてほんとにできるんだろうか? 亮治の首に自分から腕を絡ませ、次の快感を求める。 ピチャピチャと水音をさせながら亮治の右手を取り、それを俺の浴衣の中へと導いた。 けれど亮治の手は動かない。 それどころか後頭部を押さえていた手のひらが『終わりだ』と告げるようにポンポンとそこを軽く叩き、亮治の唇が舌が顔が体が、ゆっくりと離れていく。 「やっぱりもっともっとしとうなるね...」 「......なったわ、バーカ!」 「まさかたかちゃんからも求めてもらえると思わんかったぁ。嬉しいわ興奮するわで、俺のチンチン爆発寸前」 半分は本当だろうけど、半分は亮治の優しい冗談のような気がする。 歯止めが効かなくなりそうだった俺とは違い、亮治はちゃんと自分を制していた。 爆発寸前なのは間違いなく俺の方だ。 けど、亮治の少しふざけた物言いのおかげでやけにイヤらしくなってしまった部屋の中の空気は元に戻ったし、のっぴきならなかったはずの俺の下半身は僅かに落ち着いてきてる。 もっとも、先っちょからはエッチな汁が垂れてしまったようで、少し下着の中心が冷たいけど。 「嫌じゃなかった?」 「見て...わかれ。お前は?」 「そんなん、見てわかってよぉ」 ニコッと笑うと、亮治が立ち上がりグッと伸びをする。 「あと15分くらいは時間あるはずじゃし、ここ出るまえにはちぃたぁ収まるじゃろ。続きは...晩御飯の後ね」 窓辺に近づき、障子と窓を大きく開け放った。 突然流れ込んできた冷たい空気に、火照った顔と体が心地よく温度を下げていく。 「うわ、あれ中庭じゃろ? なんか、ええ感じに渋いで。ほら、たかちゃんも見てみ?」 下着の中のポジションを適度に調整すると胸に残っていた熱い空気を大きく吐き出し、俺は亮治の隣へと立つ。 ごく自然に隣から回ってきた腕が肩にかかり、俺はごく自然にその隣の大きな体にもたれ掛かった。

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