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ホテル自慢の大浴場を堪能し、部屋に戻ってそのまま座布団を枕に横になる。
座卓のこっちと向こう。
離れてるけど、決して遠くはない。
遠くはないけど触れられない...ほんの数10センチの微妙な距離。
眠いのに、なんとなく眠れない。
隣に行けばいいのか?なんて思わなくはないけど、俺から行くのはちょっと恥ずかしい。
畳の上で亮治と目が合う。
体力オバケのさすがの亮治も、少し疲れてるらしい。
トロンと蕩けたままで俺を見つめる姿に、今日何度目かの胸のときめきを感じた。
こんな姿は他の誰にも見せたくないなぁって独占欲かもしれないし、俺の前だからこんなに無防備なんだという優越感かもしれない。
いや、単純に『眠そうなコイツもほんと可愛いなぁ』ってだけかもしれないけど。
ゆっくりと瞼を閉じながら、亮治の腕が俺の方へと伸びてきた。
何もしなければ、この亮治ですら届かない距離。
俺からも手を伸ばす。
そうすればちゃんと指先が触れ、絡み合い、ギュウと握り締め合えた。
お互いがお互いを求めて手を伸ばす。
二人とも求めたからこそ繋がれた手。
これからもこのままでいたい...許されるなら。
大きな手から伝わってくる体温のおかげか、いつの間にか俺はそのまま目を閉じていた。
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あれほどガッツリ昼飯を食べたのに、高校生の食欲は恐るべしなのだ。
晩飯を堪能できるのか?と心配したはずが、腹が減って目が覚めた。
亮治はまだ寝てたけど、そっと体を揺らすと『ご飯?』なんて目を擦りながら起き上がったから、たぶん俺と大差ないだろう。
浴衣のままで構わないと聞いていたから、茶羽織だけを上に着てダイニングホールへと向かった。
今7時少し前。
中にはもう結構な人数がおり、思い思いに食べたい物を皿に盛っている。
俺達も空いているテーブルに座ると、早速取り皿を手に歩き回った。
このビュッフェは『四国の美味い物』がコンセプトらしい。
愛媛からは昼間食べた宇和島鯛めしは勿論、炊き込みの食べなれた北条鯛めしに、近年養殖に力を入れているというブリのしゃぶしゃぶ。
さすがにB級グルメって事なのかジャコ天は無かったけど、これは明日お城に行く前に食べよう。
香川は言わずと知れたうどんをセルフサービスで食べられるようになっていて、横には揚げたてらしいかき揚げとちくわ天、それに魔法瓶に入った出汁が置かれている。
うどんだけでなく、素麺も有名らしい。
小豆島は日本でも数少ないオリーブを商業ベースで栽培できる所だそうで、ここにあるのはそのオリーブを練り込んだ特別な薄緑の素麺だった。
イイダコの煮物もよく膨らんでいてツヤツヤで美味そうだ。
徳島も鯛が有名だったと思うけど、愛媛コーナーにたくさん用意してあるからかそこには無かった。
代わりに生の鳴門ワカメがドドーンと盛ってある。
これを鍋でしゃぶしゃぶして食べるらしい。
あとは『阿波尾鶏』という有名なブランド鶏があるそうで、この鶏のチキン南蛮があった。
そして高知は当然鰹。
普通のタタキは勿論だけど、『塩タタキ』というのもあるそうで、二種類の鰹が山盛りになっている。
なんと豪華な四万十のウナギ!?と思ったらウツボの蒲焼きで、一瞬ピキーンと固まってしまう。
コラーゲンがたっぷりで、高知では干物にしたり唐揚げにしたりとそれほど珍しくはない食材らしい。
そして特筆すべきはデザートだ。
なにせ愛媛を筆頭に四国は柑橘王国。
みかんに伊予柑、せとかに紅まどんなにデコポン。
そのまま食べてもいつまでも飽きない自信がある!ってくらいどれもちゃんと特徴があって美味いのに、さらにそれがムースだのゼリーだのケーキだのにしてあるのだ、美味くないわけがない。
さらに高知の柚子や徳島のすだちが、料理の風味付けだけじゃなくホットドリンクとしても用意してあって、これがまた体も温まるし口直しには抜群だった。
ビュッフェでは定番だろうピラフやカレーもあったし、子供向けなのかたこ焼きやフライドポテトなんかも並べてあって、その品数の多さに上がったテンションは一向に下がらない。
結局俺達はビュッフェで提供されている料理全種類を制覇し、更に亮治は余裕の2周目に入り......
気づけばホールの閉められる9時ギリギリまで、目一杯食事を堪能していた。
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