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ダイニングホールから、部屋へと二人並んで戻る。
あれが美味かった、これをもう一口食べたかった...思わず声が大きくなってしまうくらいテンションが上がってる。
亮治もよほど満足だったのか、いつもと違う場所がポコンと膨れた腹を撫でながらニコニコ笑って相槌を打っていた。
けど、それもエレベーターに乗り込むまで。
部屋が近づくにつれ、二人とも自然と言葉が減っていく。
鍵を開け部屋に入った途端、後ろから思いきり強く抱き締められた。
「お、おい...」
「......たかちゃん、ほんまにええん?」
この期に及んでまだ言うか?と呆れるが、二人で踏み込もうとしている未知の世界への恐怖心はわかる。
ましてや俺の場合は、本来性交渉に使うべきではない場所を明け渡そうとしているんだから、その覚悟を確認しておきたくもなるだろう。
残念ながらとっくに腹は括ってるし、なんならさっさと先に進みたいと思ってるけれど、コイツにしてみればまだ自分の気持ちに流されてるだけのように思えてるのかもしれない。
しっかりと前に回されたままの手を、トントンと軽く叩く。
「俺、準備に時間かかると思うけ、なんなら先にシャワー浴びてこいや」
「たかちゃん......」
「あとな、約束は撤回。お前はケツ洗わんでええけ。もし俺が今日お前を受け入れられんかったとしても、それでも代わりに入れさせろとは言わん。その時はちゃんとお前と最後までできるようになる日まで、俺が抱かれちゃる。逆を考えるんは...またその後でええ」
強く戒める腕の力が僅かに弛む。
ここぞと俺は振り返ると、ちょっとだけ背伸びしてキスを仕掛けてやった。
不意打ちのそれは、まるで衝突事故だ。
色気も何も無いけれど、ぶつかるようにしっかりと唇が合わさる。
一瞬驚いて下がりそうになる頭をぐいと引き寄せれば、腕の力が再び強くなった。
亮治が少し顔を傾ければ、合わさっただけのキスはより深い物になる。
ジリジリと体ごと距離を詰められ、そのまま背中を壁に預けた。
覆い被さる亮治に向かって俺から舌を伸ばす。
それを嬉しそうに吸い込むと、口内で甘噛みし扱き、更に強く先端が吸われた。
ズンと熱く重い熱が腰に溜まっていく。
本能なのか、ついその熱を亮治に擦りつければ、触れるのは同じ熱。
気付いた亮治は長い脚で浴衣の裾を割り、俺は右手を下ろした。
押し入ってきた膝が俺の中心を強く弱く嬲り、下りた右手が亮治の中心を強く弱く扱く。
そのまま快感を求めたくて腰を振りそうになり、慌てて唇と右手を離した。
ハァハァと熱い息を吐いている亮治が生々しくて、それだけで頭がクラクラする。
「たかちゃん...たかちゃん......」
更に追いかけてくる唇を顔を背けてかわし、大きく乱れた浴衣を適当に直した。
「ちょっと落ち着けって。俺も...早うしたいんじゃけ。ほいでも、このまんま先の事までするわけにいかんじゃろ? ちゃんと準備させて欲しいけん...な?」
「......うん、わかった。俺、体とチンチン綺麗にしてくる」
「お前なぁ...そういうん、言わんでええ!」
大急ぎで風呂場に駆け込む亮治を確認すると、俺は慌てて自分のカバンを開く。
中から持ってきた大量のタオルとローション、そしてコンドームを取り出した。
何が出るか、何が付いてしまうかわからないのだ。
シーツは勿論、備品のタオルすら汚す事は憚られる。
どの程度のローションを使うのが正解なのかも判断つかないから、この一本分を空っぽにしてしまうかもしれない。
できれば空っぽになる前には亮治のあの大きなモノが入るようになっていればいいんだけど。
それらを一纏めにして寝室に持ち込み、片方のベッドの上に置く。
バカだけど、なんだかんだ気の利く亮治の事だ。
ここに置いておけば、意味を理解して準備しておいてくれるだろう。
風呂場のドアが開く音と共に、腰に小さなタオルを巻いただけの亮治が飛び出してきた。
「んじゃ、俺も行ってくるわ。慣れとらんし、時間かかったらゴメンな。あ、出てきたら寝とるんだけは勘弁してくれよ?」
「寝られん! もう心臓はバクバクじゃしチンチンはギンギンじゃし。ちぃと落ち着かにゃいけんと思うて水かけてみたけどダメじゃった。あのね、あのね、もし万が一入れる前に出てしもうても、俺絶対すぐに元気になるけ、怒らんといてね?」
「怒るかいや。俺こそ興奮しすぎで瞬殺かもしれんじゃろ?」
備品の方のタオルを手に立ち上がる。
亮治は優しく熱い眼差しを俺に向けるとフワリと抱き締めた。
「たかちゃん......」
「うん?」
「......洗うん、手伝おうか? ほら、たかちゃんあんまり体柔らかいこと無いし」
「死んでもお断り! ええか、覗きにでもきたら、もう二度と指一本触らせんけんの!」
「はいっ! 絶対今日は覗きません!」
今日はってなんだ、今日はって......
そんな事を思いながらも、亮治にとって今日が最高の夜になってまた次を望んでくれるなら、その時は好きにさせてもいい気がしてくる。
そんな場面を見せるなんて絶対に嫌なはずなのに、亮治になら全部を見てもらいたいなんて、俺はすっかりおかしくなってしまったらしい。
興味だけじゃなく、おそらく本当に俺が上手く中を洗えるのか心配してるらしい亮治は、困ったように眉毛を下げている。
そんな亮治の頬に軽く口づけると、強がり半分の笑顔を作って風呂場へと向かった。
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