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第71話 ヒートの終わり
気持ちの良いシーツの上で、眩しい陽の光で目覚めた僕は、無意識にベッドの主を手を伸ばして探った。そこは微かにまだ体温を感じるけれど、誰も居なかった。
僕は一抹の寂しさを感じて、横になったまま目だけを動かした。何ていうか、起き上がれる気がしなかったというか…。でもからりとしたシーツに、さっぱりした僕の身体が、あっくんが全てやってくれたんだと教えてくれる。
(…あっくん。)
ダメだ。声が出ない。あれだけ喘いでたら、喉も逝っちゃうよね…。僕はまた、ぼんやり、うとうとしていたんだ。その時、僕の耳にご機嫌な鼻歌が聞こえてきた。ちょっと音が外れているような楽しげな鼻歌は、だんだん僕の方へと近づいてきた。
僕は一生懸命瞬きすると、その鼻歌の発生源を見上げた。
「理玖、起こしちゃったか?もっと眠っててもいいよ。初めてのヒートは疲れ切って熱っぽくなるって、ドクターが言ってたから。スポドリ飲むか?」
そう言いながら、僕の額に冷たくて大きなあっくんの手のひらを押し付けた。ああ、気持ちいい。やっぱりちょっと熱っぽいのかも。
僕は優しくあっくんに抱き抱えられて、やっぱり口移しでスポドリを飲まされた。あっくん、僕もっとゴクゴク飲みたいよ…。でもあっくんが優しく口づけてくるのはいい感じ…。ひとしきり飲み終わったら、流石に僕も声が出た。
「あっくん、色々片付けしてもらっちゃったの?ごめんね。僕、全然気づかなかった。」
あっくんはクシャっと楽しげに笑うと僕の頬にチュってした。
「自分の大事な番の世話をするのは、何ていうか本能的なものっていうか。やりたくてしょうがないっていうか?やばいな。俺ますます理玖に過保護になりそうだ。」
僕はクスッと笑って言った。
「あっくんが過保護なのは昔からでしょ?でも僕の家にはあっくん以上に過保護な人たちが何人も居るからね?なんか僕って、ダメダメ人間になっちゃいそう…。気をつけなきゃ。」
僕が自分を戒めていると、あっくんが僕をギュッと抱きしめて言った。
「…とりあえず番になった事、三好家に報告に行こう。あー、もしかして俺、彗さん辺りに殴られるかも。」
僕はあっくんの顔を見上げて尋ねた。
「涼兄じゃなくて、彗兄なの?」
あっくんは僕を見下ろして、こめかみに柔らかく口付けると言った。
「そっか、理玖はあんまり彗兄と接触がないもんな。俺が小さい頃、彗さんは理玖の事誰にも触らせなかったんだ。俺たちは病原菌扱いだったよ。
それって、今もあんまり変わってなくって、理玖を三好家で1番溺愛してるのって、彗兄だと思ってたんだけど。知らなかった?」
僕は初めて聞く話に目が丸くなってしまった。
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