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第78話 噂のまと

 「あー、何か疲れちゃった。」  僕はカフェテリアでテーブルに突っ伏すと悠太郎と尊に愚痴った。こうしていても、騒めきに紛れて、僕の名前と番うというフレーズが耳に入ってくる。僕は前の日にしっかり覚悟していたはずだったけれど、予想よりも酷い有様だった。 「まぁ、中学生で番うってのがかなりのパワーワードだしなぁ。しかも生徒会の広報で全校生徒が知ってる理玖だから、まぁしょうがないんじゃない?また伝説になっちゃうな。」  僕は顔を上げて二人をうろんな眼差しで見つめた。 「…伝説って何?」  悠太郎が僕に自分のランチセットからデザートのプリンを僕に差し出した。僕は食欲が無くて小さいサンドイッチだったけれど、プリンは食べたいかも。ありがたくニコッと悠太郎にお礼を言うと食べ始めた。 「相変わらず悠太郎は理玖に甘いよな。もう、報われないってのに。」  悠太郎が尊の椅子を蹴ったのか、二人で何かわちゃわちゃしてたけど僕はもう一度尋ねた。 「ねぇ、伝説って?」  尊はニヤニヤしながら声を潜めて話し出した。 「理玖と篤哉さんて、赤ちゃんの頃からの幼馴染だろ?それで中学入った途端、バース判定出る前に約束して、それだけでもロマンチックの塊なのに、今回の番。もう、これこそ運命の番なんだろうって盛り上がってるわけ。」  僕は、なるほどと頷きながらコメントはしなかった。尊は片眉を上げて言った。 「ん?反応なし?」  僕はにっこり笑って答えた。 「うん。僕たち、本当に運命の番だと思うから。だって、僕あっくんのことしかずっと見えてなかったし。あっくんも僕が幼かったから随分悩んだみたいだけど、気持ちは一緒だったみたい。ね?  まぁ、こんなに噂の的になるのは困るけど、良いこともあったよ。僕、もうアルファの悠太郎と尊といても大丈夫ってことだよね?僕、それが本当に嬉しいんだ。今まで二人に心配ばかり掛けてたから。」  二人は顔を見合わせて、悠太郎が僕に微笑んで言った。 「まぁ、理玖らしいちゃ、らしい反応だな。…運命の番か。俺にもそんな相手がどこかにいるのかな?」  尊は胸のポケットから錠剤を出すと、それを眺めながら言った。 「だったらこれも必要ない訳か。しかし、あの時の理玖から、こんな急展開になるとはマジ予想しなかったけどなぁ。…悠太郎、運命の番なんてやめてくれよ。俺、理玖一人の面倒みたので十分なんだけど。これ以上俺を振り回すのはやめてくれ。」  そう言って苦笑いしたんだ。

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