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第112話 実家に帰る

 「ただいま~。」  僕はΩだけど、もう番っているから時々電車に乗って移動も出来る様になった。最も番ってなかったら無理だったと思うけどね。  あっくんは朝心配そうにしてたけど、尊達と同じ電車に乗るならと、しぶしぶ許してくれた。  僕は久しぶりに乗った電車が楽しくて、尊に小学生みたいだなって言われちゃったけど、それもしょうがないと思うんだ。だって、初めて電車に乗ったのが、中三の冬だよ?  ほんと、過保護に大事にされてきたなって思うけど、そろそろ僕も一人前の人間として、一人立ちしないといけないなって思うんだ。  ある意味、親元を離れたし…。もっとも自立してるかって言われたら、あっくんに、おんぶに抱っこで何も言えないけど…。そう、でもちょっとずつ色々頑張るさ。  そう思いながら玄関で迎えを待ってると、にこやかな笑顔で野村さんがドアを開けてくれた。 「理玖お坊ちゃん、お帰りなさい。待ってましたよ?今日は奥様もお待ちになってますよ。」  僕は靴を脱ぎながら野村さんを見上げて尋ねた。 「母さんが?珍しいね、この時間に家にいるのって。」  すると野村さんはにっこり微笑んで、奥様も僕が普段家に居ないから寂しいのだと言ったんだ。  確かに末っ子の高校生の僕が、週に一度しか帰らないのは、母親にとっては寂しいのかもしれないな。母さんもΩだから事情は解るにせよ、それでスッキリ割り切れる訳でもないのかもしれない。  部屋で着替えてリビングへ行くと、母さんが僕を手招きして言った。 「理玖、これ見てちょうだい?」  僕は挨拶をそこそこに母さんの手元を覗き込んだ。そこには、真っ黒なもふもふしたものがあった。僕は思わず息を吸い込んで囁いた。 「…母さん!もしかして猫飼い始めたの⁉︎」  僕の興奮した様子に、母さんは悪戯っぽい顔で首を振った。 「いいえ、残念だけど預かってるだけよ?我が家は番の家でしょう?ヒートの時期、生き物の事を考えてあげられないから、飼いたくても飼わないって決めたの。  貴方達は自分が面倒を見るって言ってたけど、大人として責任を取れないと無理でしょう?…この子は、ちょっと旅行中のお隣さんから預かってるだけなの。  良かった。明日には返さないといけなかったから、理玖に見せることが出来て。…理玖が一番飼いたがってたものね?」  僕は黙って、母親の膝の上で丸くなって眠る黒猫をそっと撫でた。そっか、僕は大人になるにつれて、色々な事がパズルのピースをパチリ、パチリとはめる様に理解できるようになっていた。  小さい頃、犬や猫を飼ってくれない親を恨んだこともあるけれど、大人として責任を果たしただけだったんだな…。そう思いながら、僕は母さんとにっこり微笑みあったんだ。

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