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第3話 男同士でヤるってどんな感じ?(1)

「そういえば、そろそろ試験でしょ? ちゃんと勉強してるの?」  そう母親に釘を刺されたのは、つい一週間前のこと。  十月上旬になり、千佳にとっては憂鬱な中間考査が控えていた。  勿論、これといってテスト対策などしていない。直前になって、慌てて幼馴染みを頼るのが常だった。 「明センセ~……この公式、長ったらしくて拒絶反応起こすんだけど」 「いいから叩き込め。とりあえず基礎問題が解ければ、赤点回避できんだろ」 「……うっす」  試験前の休日。千佳は明を招き、自室で一緒に勉強をしていた。  テーブルの上に教科書とノートを広げて、ひたすら問題と睨めっこする。特に苦手なのが数学で、公式を一つ覚えるだけでも苦痛だ。 「あとは問題解いていくうちに覚えるから」  対して、明は片手間に応用問題を解いていた。  彼が所属している陸上部は、休養日が週二日しかない。時間的余裕なら千佳の方があるのに、この差といったら何だろうか。 「ほら、集中」 「いてっ」  シャープペンシルのノックボタンで額を突かれる。些細なやり取りなのに、なんだかドキッとしてしまい、千佳は突かれた箇所を指先でなぞった。  明のことが好きなのだと受け入れてから、こんなことばかりだ。平常心を装うも、不審に思われていないか不安になる。こうして向かい合っているだけでも、気恥ずかしいのだから困ってしまう――。  そんな悶々とした気持ちを抱えつつ、千佳はシャープペンシルを走らせたのだった。 「とりあえず、前半の科目は何とかなりそうか」 「ああっ、疲れたあ~!」  明の言葉を受けて、千佳はテーブルの上に突っ伏した。  ひとしきり頭を悩ませたせいで、すっかり肩や首が凝ってしまった。いつもより余計にそう感じるのは、明のことがずっと頭にあったからだろう。  ちょうど親は外出していて、よく考えれば明と二人きりなのだ。妙に意識してしまい、どうにも居たたまれない。  何の気なく壁掛け時計を見上げたら、夕方の五時過ぎだった。窓の外は暗くなっていて、今日のところはこのあたりでお開きするのがいいだろう。  と、立ち上がったところ、 「お、わっ!?」  ずっと同じ体勢だったせいか、足が思うように動かなくて、たたらを踏んでしまう。倒れそうになったのを、明が近くにやって来て支えてくれた。 「っぶね……何やってんだよ、お前」 「………………」  明の腕の中に抱き留められる形となり、千佳は大いに焦る。  今まで何てことはなかった距離感。ふざけて体を密着させることなんて、日常茶飯事だったはずだが、今は胸がドキドキして仕方がなかった。

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