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第5話 俺が好きなのは(1)

 十月下旬のとある週末。関東高校区域の新人陸上競技選手権が開催された。  新人大会は選抜形式であり、参加選手は各種目三位までの入賞者に限られる。先日、選考を兼ねた大会が行われたのだが、明は見事に出場権を獲得したのだった。 (くそお、やっぱアイツかっけえ~……)  この日、明の勇姿を見ようと、千佳も会場である都内の陸上競技場を訪れていた。  トラックではユニフォームに身を包んだ選手たちが、最後のウォーミングアップをしている。千佳のいる応援席は距離がやや離れているものの、明の姿はすぐに見つかった。  明の出場種目は、男子110Mハードルだ。学校でもグラウンドで練習している様子を見ていたけれど、競技場で見るユニフォーム姿は、いつにも増して格好よく思えてならない。  やがて競技時間が近づいてきたのか、スターティングブロックをセットする選手が出てきた。ハードル数台を跳ぶ試走が始まれば、いよいよといったところで千佳も息を呑む。 (頑張れよ、明……)  祈るように視線を送っていたら、不意に明と視線が合ったような気がしてドキリとした。応援に行くとは言っておいたけれど、まさかこちらに気づいてくれたのだろうか。 (なんて、な! 自意識過剰だっつーの)  甘ったるい考えに、自分のことながら苦笑してしまう。そのうちにも選手全員がスタート地点に立ち、選手紹介が行われた。 『第三レーン。瀬川明くん、T高校』  名を呼ばれ、明が一歩前に出て礼をする。彼の表情は真剣そのものだ。  それから会場は一気に静まり、《オン・ユア・マークス(位置について)》と合図がなされた。  選手たちがスターティングブロックの前に移動してくる。地面に手をついて姿勢を整えると、そこから静止し、《セット(用意)》の合図で腰を上げた。  緊張の一瞬。間もなく、スターターピストルが鳴って――選手たちが一斉に走り出す。  応援の歓声と拍手が沸き起こり、千佳も負けじと声援を送った。  スタート時点では選手間に差がないように思われたが、四台目、五台目のハードルを越えたあたりで徐々に差が開いてくる。  明は先頭の選手に次ぐポジションだ。安定したフォームで、ハードルのすれすれを跨ぐように越えていく。そしてスピードを維持したまま、順位を落とすことなくゴール――あっという間の出来事だった。

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