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第5話 俺が好きなのは(2)

「明、すげぇ!」  熱くなって、ついガッツポーズをしてしまう。  陸上のことなんて全然分からないけれど、選抜大会で二位というのは、ものすごい結果なのではないだろうか。 「――……」  リザルトがアナウンスされるなか、明が振り向いてこちらに軽く手を振った。どうやら本当に気づいていたらしい。 (ガッツポーズしてたの超ハズい……つか、何これ照れくさっ)  甘酸っぱい気持ちを感じながらも、ギクシャクと手を振り返す。胸が高鳴って、くらくらと眩暈がしているような感覚に陥る。  ところが、近くの席から女子の「きゃあ!」という黄色い声が聞こえて、千佳は現実に引き戻された。 「ねえ、瀬川くんが手振ってくれたよ!?」 「てゆーか、始まる前もこっち見てたし! もしかすると、もしかするんじゃ」 (いや、俺に対してだから! ファンサとかじゃねーよ!?)  そう言いたかったものの、ぐっと堪えて黙り込む。  横目で見れば、千佳たちが通っているT高校の制服とエナメルバッグが目に映った。察するに、明と同じ陸上部員だろうか。 (いや、単なるファンで応援しに来たってのもあるかもだけど……アイツ、モテるし)  彼女たちは興奮した様子で、あれやこれやと話している。  千佳だって、明の勇姿に心から格好いいと思ったのだから、同じように思うのは当然だろう。だが、明がモテている事実を目の当たりにするのは、正直なところ面白くない。  さらには「告白しちゃいなよ」といった会話が聞こえ、千佳は余計に落ち込むのだった。 「いーじゃん、ユキ。告白しないと何も始まんないよ?」 「そうそう、ワンチャンあるかもしんないしさっ」  まるで、以前の自分を見ているかのようだ。  今思えば、あの頃女子に抱いていた好意は、好きなアイドルに寄せるものとなんら変わらなかったのだと思う。安易な理由で好きだと感じたら、玉砕することなんて少しも気にせず、繰り返し告白していた――あの頃の自分はどこへ行ってしまったのだろう。 (きっと明も、こんな感じで俺を見てたんだろうな)  好きな相手に想いを告げることなく、あんなにも切ない表情を浮かべていた心情が、今なら理解できる。  明に好きな相手がいると知ったとき、「ただ想い続けるのは不毛ではないか?」などと言ってしまったけれど、なんて至らぬ考えだったのだろう。  なんの進歩も成果も得られないどころか、想いが募れば募るほど伝えられない苦しさが痛みとなって、こんなにも胸を締めつけてくるというのに。 (俺だって、本当は言いてえよ。明が……すげー好きなんだもん)  物怖じもせず告白していた自分が、本当に伝えたい相手には告白できないなんて。あまりにも滑稽で、千佳は力なく笑うしかなかった。

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