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第5話 俺が好きなのは(3)

    ◇  休日明け。先日行われた選抜大会の結果を受けて、校内は明のことで持ちきりだった。  かといって、彼を取り巻く環境は以前とまったく変わらず。昼休みにもなれば周囲の反応も落ち着くもので、いつもどおりの光景が待っていた。 「ヒビチカは応援しに行ったんだよな? どーでしたか、うちの瀬川明クンはっ」  昼食を《いつものメンバー》で食べていると、脈絡もなく安田が訊いてきた。ホットドッグをマイクのように差し出してくるあたり、完全にふざけているのだろう。 「どうって」千佳は考えてから、「すげー速くて……カッコよかった、ですけど?」 「うっわ、《小学生並の感想》じゃん」 「う、うっせーなあ!」  迷いながらも無難に答えた結果がこれだ。友達同士の些細なやり取りとはいえ、明の目が気になって困ってしまう。 「………………」  が、当の本人は、黙々と弁当に箸を伸ばしていて、杞憂に過ぎなかったことを思い知らされる。いや、さすがにその態度はどうなのか。 (今、お前の話してんですけど! シカトかよ!?)  千佳がモヤモヤしているうちにも話題は変わっていく。  そうして、昼休みもそろそろ終わるという頃合い。ふと、クラスメイトが明の名を呼んだ。どうやら呼び出しらしい。  席を立った明を目で追えば、教室のドアのところで一人の女子生徒が待っているのが見えた。なんとなく見覚えがあるような、ないような――と考えて、千佳は思い当たる。 (もしかして……大会のとき、俺の近くに座ってた女子か?)  はっきりと見たわけではないが、そのような気がしてならない。  明が戻ってくるなり、すかさず三人で「誰?」と詰め寄った。 「陸上部の先輩。なんか、話があるからって放課後呼び出された」  明の返事に、安田と沢村がニヤリと笑みを浮かべる。期待通り、といったところだろう。 「いよっ、モテ男! 今回はどうすんよ?」 「個人的に、ってことは……アレしかないよなあ」 (事情を知らないとこうなるよなあ)  三人の中で千佳は静かに冷めていた。以前なら「どうしてお前ばっかりモテるんだ!」と騒いでいただろうが、今ではまったく気が乗らない。  明に対する想いを伝えられるのが羨ましい――そうぼんやりと考えていたら、 「さあな。美人だと思うし、まったく知らないワケじゃねえし……案外付き合ってみるのも悪くないかもな」  明は思わぬことを口にする。

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