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第5話 俺が好きなのは(7)

 壁に背を預ける形で座っていたものの、こちらの存在に気づくなり、腰を上げてゆっくり近づいてくる。  その姿を見て安心したのだろう。最後の階段を上がったとき、ついに千佳の足はもつれてしまった。危うく転びそうになったのを明に支えてもらい、へなへなと座り込む。 「大丈夫かよ」 「わ、わりーな。ちょっと、ダメかも――おえ……吐きそう」 「『吐きそう』ってお前な。どうして、こんなになってんだよ」 「だって、さ。ここまで走ってきたんだぜ? 帰宅部、ナメんなっての……」  本気で心臓が苦しい。ぜえはあ、と荒い呼吸を繰り返しながら途切れがちに答えると、明は黙って背中をさすってくれた。  明の厚意を受けつつ、再び千佳は口を開く。まだ全身が悲鳴を上げていたけれど、構ってなどいられなかった。 「先輩は? つーか告白、結局どうしたんだよ?」  訊くと、明は困ったように眉根を寄せる。 「先輩は帰ったし、告白なら断った。あんなふうに言われたら、断るしかねえだろ」 「……よかったあ。もしかして、俺のこと待っててくれた?」 「あの様子だと、なんとなく来るような気がしたからな。まさか息切らすまで走ってくるとは思わなかったけど」  明に言われて千佳も苦笑する。  漫画じゃあるまいし、と思うものの、明のことを考えたら走らずにはいられなかった。この想いはもう誰にも、自分にだって止めようがない。 (ここまで来ちまったら……これ以上、バカな頭でウジウジ考えても仕方ねーよな)  小さく深呼吸して、千佳は顔を上げた。  視線が合う。じっと見つめれば、明もまっすぐに見返してくれた。 「なあ、明。俺らさ、遠慮とかするような仲じゃねーよな」 「そりゃそうだろ。ケンカなんて何回もしてきたし、そもそもお前デリカシーないし」 「じゃあ……言ってもいい?」  何を、とも言わなかった。静かに明は耳を傾けて、言葉を待っているようだった。  二人の間にしばし沈黙が訪れる。ただ互いを見つめ合い、まるで時が止まったかのような錯覚を起こした。  そんな永遠とも思える長い一瞬のあと、やっとの思いで決心がつく。千佳は震える唇をゆっくりと動かした。 「俺、明が好きだ」  ずっと胸の奥にしまっていた気持ち――明に対する、本当の想い。その一言を口にするのに、どれほどの時間を要しただろう。  はっきりと言葉にしなくても、明は恋愛対象としての意だと察したらしい。信じられない、といったふうに口元を手で覆った。 「嘘、だろ……」 「ごめん。俺だって大切な親友だと思ってるし、言わないでおこうと思ったんだけどさ――こんな気持ち、抑えていられるほど我慢強くねーんだわ」

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