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第5話 俺が好きなのは(9)

「明がそう考えるのも無理ないってわかるよっ……わかっけどさ!」 「……は? このバカッ、全然わかってねえだろ!?」 「わかってるっての! たとえ明に嫌われても、俺は友達でいるかんな!」 「お前なあ!」  涙目になりながら訴えるのだが、明は許してくれず、それどころか肩を掴んで見据えてくる。千佳はぎゃあぎゃあと叫ぶしかない。 「おい、ちっとは人の話を!」 「ぎゃーっ、誰が聞くか! お前から『気持ち悪い』とか言われたら――」 「千佳!」  いつになく明が声を張り上げた。千佳は反射的にびくりとして動きを止める――名前なんて呼ばれたのは何年ぶりだろうか。 「あ、明……?」 「悪い。俺、嘘ついてた」  そっと明の手が頬に伸びてきて、指先で優しく撫でられる。その手に導かれるように顔を上げれば、 「――……」  今度こそ完全に言葉を失ってしまう。  唇に柔らかなものが触れていた。瞬きすらできないほどに驚いて、キスされたのだと理解するまでに数秒かかった。 「……千佳」  長いキスのあとに再び名前を呼ばれて、また同じように見つめあう。状況が呑み込めた瞬間、まるで心臓が耳元にあるかのように、鼓動が激しくなるのを感じた。  そして、明の唇が静かに動く。 「俺が好きなのは千佳――お前だよ」  放たれたのは、思ってもみなかった言葉だった。

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