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第6話 ずっと好きだった(3)

 冷静になってみれば、激しい後悔の念しかない。魔がさしたとはいえ、相手をそそのかして、なんということをしてしまったのだろう。  本人に確認してみたところ、何かしら思うところあって意識しているのは間違いない。それが自分にとって都合のいいものであればよかったけれど、残念なことにそうではなさそうだ。 「明、今日はホントおめでとな! なんつーか、友達として誇らしく思えた」 「こっちこそサンキュ、お前が見てると思ったら気合入ったわ。下手なとこ見せらんねえ」 「そりゃよかった。んじゃ、また学校でな!」  自宅に到着して、別れの挨拶を交わす。普通に会話ができているというのに、その間もどこかぎこちない雰囲気があった。 (……どうして目を合わせてくれない? どうして不自然に笑うんだよ?)  千佳が家に入っていくのを見ながら、つい勘ぐってしまう。  しばらくすれば元どおりになるだろうと思っていたものの、こうしてずっと尾を引いているあたり、ことは思っていたより重大なのかもしれない――。  そうやって考えて、ある最悪の可能性に行きついた。悪い方向に考えるのは自分の悪い癖だと思いつつも、その考えを捨てきれない。 (まさか、気づかれた?)  先日の一件がきっかけで、こちらの気持ちに気づいてしまったのではないか。  だとしたら、最近の妙な言動も腑に落ちる気がした。軽蔑することはないにせよ、気まずくて落ち着かないに決まっている。 「明~、荷物降ろしちゃいな?」  姉の声が背後から投げかけられるも、もはやそれどころではない。  明はウインドブレーカーを羽織るなり、勢いよくファスナーを引き上げた。そして筋肉と関節を軽くほぐしながら、「少し走ってくる」と口にする――とにかく、今は無性に走りたかった。 「えっ、今から? 大会終わったってのに?」  姉は当然、ぎょっとした表情になる。だが、そんなこと気にしていられない。 「夕飯までには戻ってくっから。荷物は玄関にでも頼む」 「ちょ……ああ、もうっ! 暗いんだから気を付けなよ!」  返事の代わりに片手を上げて、明はそのまま走り出した。

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