37 / 76
第6話 ずっと好きだった(4)
すっかり夜になった空の下。冷たい風が頬を切るように通り抜けていくが、不思議と寒くはなかった。
住宅街を抜けて、よくランニングコースとして利用している河川敷をひた走る。普段ならもっと速く走れるはずなのに、足取りは重い。まるで泥沼の中を進んでいるようだ。
(クソッ、苦しい――)
心臓が激しく脈打ち、酸素を求めて呼吸が荒くなる。
それでも足を緩めることはできなかった。走っていれば嫌でも雑念が消える。余計なことを考えずに済む、と。
しかし、いくら走ったところで思考が止まる気配がない。とうとう明は立ち止まり、膝に手をついて肩を大きく上下させた。
「……っ」
額に滲んだ汗を拭う。浮かんでくるのは千佳のことばかりだった。
(甘かった。言葉にしなければ、伝わらないものだと思ってた……)
もし本当に気づかれていたとしたら、これからどう接していけばいいのだろう。これまでと同じように付き合っていいものだろうか。
(千佳にだけは嫌われたくない……傷つけたくない)
想いは募るばかりで、どうにもならないところまで来ている。せめて友達でいたいのなら、こちらもある程度は距離を置くべきだろう。
そろそろ引き際なのかもしれない、と考えていたのに――。
◇
屋上へと続く階段の踊り場は、今や静寂に包まれていた。
「俺が好きなのは千佳――お前だよ」
もう冗談めかさない。ずっと伝えたかった想いを、やっとのことで明は告げる。
千佳は目を丸くして固まっていたが、やがて大きく息をついて苦笑を浮かべた。
ともだちにシェアしよう!