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第6話 ずっと好きだった(5)
「なに、また冗談?」
「冗談でキスできるわけねえだろ」
「で、でもお前、童貞じゃねーじゃん。だから、その……」
「キスは好きな相手としかしねえっての。つーか、初めてしたし」
言うと、千佳はますます困惑顔になりながら、顔を真っ赤にして唇を引き結んだ。どうやら本気だと察してくれたらしい。
「やっぱ気づいてなかったんだな。こっちの感情に気づいたから、気まずいのかと思った」
「はあ!? ちょ、なんだよそれっ」
「だって、そうだろ。避けてたのは確かじゃねえか」
「俺がそんな理由で距離置くわけねーだろ、酷くね!? なに、そんなヤツだと思ってたの酷くね!?」
こちらが思い悩んでいたことを知らぬ千佳は、噛みつくように声を荒らげる。そう言われては明も言葉を返せない。
(そうだった、コイツはそんなヤツだった。どこまでもまっすぐで、曲がったことが嫌いで――俺も、そんなところが好きで)
嫌われたくない。傷つけたくない。そんなふうに悩んでいたのがバカみたいだ。
明が「悪かった」と小さく謝れば、千佳も同じように返してきた。
「その、マジで違くってさ。ちょっとしたことで嬉しくなったり、悲しくなったり、恥ずかしくなったり、苛立ったりしちまって――最近の俺、ヘンだったかもしんねーけど……そ、そーゆーことだからっ」
「『そーゆーこと』って」
「っ……明に恋してるって気づいてから、すげーヘンなんだよ!」
千佳はいよいよ居心地が悪くなったらしく、こちらを見上げて睨んでくる。その瞳が潤んでいるように見えたのは、きっと気のせいではない。
(……なんだよ。自分の都合のいいように考えてよかったのかよ)
あり得ないと思いながら、彼の言動にわずかな期待をしてしまう自分がいたのも事実だ。けれど、その期待はいつも打ち砕かれて、だからこそ諦めていたのに――明は全身から力が抜けるような感覚を覚えた。
疑いの余地はないが、この期に及んでまだ信じられない気持ちがある。長年ひそかに想いを寄せていた相手が、自分と同じ想いを抱いてくれるなんて、こんな奇跡があっていいのだろうか。
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