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第6話 ずっと好きだった(6)

「夢じゃ、ないんだよな?」  思わず口にした言葉は、自分でもわかるほど間抜けだった。が、千佳は笑わない。 「それはこっちのセリフだっての。つーか、お前も好きなら『好き』って言えよ」 「……言ったろ。そしたらお前が微妙な顔すっから、冗談としか言えなくなった」 「あ、あんなん告白のうちに入んねーわ!」 「そもそも、女に告白しまくるようなヤツだったし。ぶっちゃけ、今でも信じらんねえよ」  率直に言うと、拗ねた子供のような表情で千佳が視線を落とした。しばらくバツが悪そうにしていたが、やがてゆっくりと言葉を紡ぎ始める。 「ごめん、お前の気も知らずに……いろいろとアレだったよな」 「いいよ。こっちは隠してたんだから当然だろ」 「でも、こんな気持ち味わったのは明が初めてだって。好きな相手がいるって言われたとき、胸のあたりがぎゅってして――切なくなって。それで、さ……」  千佳はそこで一度区切って、 「告白……っぽいのされたとき、すげードキドキしちゃって。なのに、冗談とか言うからショックで――そこで俺、お前のことが好きなんだって気づいたんだ」  言いにくそうにしながらも、確かにそう告げる。  これが精一杯とでも言わんばかりの姿に、愛おしさが込み上げてきて止まらない。自分たちは一体、今まで何を勘違いしていたのだろうか。 「俺ら、互いに失恋したと思い込んでたのかよ」  こちらの言葉で、千佳も合点がいったらしい。 「で、勝手に傷つけあってな」 「バカみてえ」 「なに言ってんだよ。ガキの頃からこうだったじゃん」  一瞬の間を置き、二人一緒にクスクスと笑いだす。  互いに好意を寄せていたのであれば、もっと早く伝えていればよかった。なのに、相手の意志や今まで築いてきた関係を尊重するあまり、空回っていたというわけだ。それが逆に相手を傷つけていたとは知らずに。  だが、すべては結果論にすぎないし、もうどうだっていい。  報われないと知りながら、それでも互いを想っていた二人。それが今、こうして笑いあえているのだから。  ひとしきり笑うと、どこか吹っ切れた様子で千佳は口を開いた。 「……俺なんかでいいの? 男同士でさ、顔だって平凡だし、なんの取り柄もねーのに」 「おまけに、バカでデリカシーもねえのにな」 「あのう~。そ、そこはフォローするとこなんじゃね?」 「だとしても、そんな千佳が好きなんだよ。前から――ずっと、好きだった」

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