39 / 76
第6話 ずっと好きだった(6)
「夢じゃ、ないんだよな?」
思わず口にした言葉は、自分でもわかるほど間抜けだった。が、千佳は笑わない。
「それはこっちのセリフだっての。つーか、お前も好きなら『好き』って言えよ」
「……言ったろ。そしたらお前が微妙な顔すっから、冗談としか言えなくなった」
「あ、あんなん告白のうちに入んねーわ!」
「そもそも、女に告白しまくるようなヤツだったし。ぶっちゃけ、今でも信じらんねえよ」
率直に言うと、拗ねた子供のような表情で千佳が視線を落とした。しばらくバツが悪そうにしていたが、やがてゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
「ごめん、お前の気も知らずに……いろいろとアレだったよな」
「いいよ。こっちは隠してたんだから当然だろ」
「でも、こんな気持ち味わったのは明が初めてだって。好きな相手がいるって言われたとき、胸のあたりがぎゅってして――切なくなって。それで、さ……」
千佳はそこで一度区切って、
「告白……っぽいのされたとき、すげードキドキしちゃって。なのに、冗談とか言うからショックで――そこで俺、お前のことが好きなんだって気づいたんだ」
言いにくそうにしながらも、確かにそう告げる。
これが精一杯とでも言わんばかりの姿に、愛おしさが込み上げてきて止まらない。自分たちは一体、今まで何を勘違いしていたのだろうか。
「俺ら、互いに失恋したと思い込んでたのかよ」
こちらの言葉で、千佳も合点がいったらしい。
「で、勝手に傷つけあってな」
「バカみてえ」
「なに言ってんだよ。ガキの頃からこうだったじゃん」
一瞬の間を置き、二人一緒にクスクスと笑いだす。
互いに好意を寄せていたのであれば、もっと早く伝えていればよかった。なのに、相手の意志や今まで築いてきた関係を尊重するあまり、空回っていたというわけだ。それが逆に相手を傷つけていたとは知らずに。
だが、すべては結果論にすぎないし、もうどうだっていい。
報われないと知りながら、それでも互いを想っていた二人。それが今、こうして笑いあえているのだから。
ひとしきり笑うと、どこか吹っ切れた様子で千佳は口を開いた。
「……俺なんかでいいの? 男同士でさ、顔だって平凡だし、なんの取り柄もねーのに」
「おまけに、バカでデリカシーもねえのにな」
「あのう~。そ、そこはフォローするとこなんじゃね?」
「だとしても、そんな千佳が好きなんだよ。前から――ずっと、好きだった」
ともだちにシェアしよう!