42 / 76
第7話 一緒にいると触りたくなる(2)
◇
土曜日を迎え、ついにデート当日。千佳は部屋の中をうろうろしながら唸っていた。
「やっぱ大人っぽすぎか~? 似合わないって思われるかも……」
ふと立ち止まっては、鏡の前で何度も服装を確認する。パーカー、カーディガン、スキニーパンツ……と、カジュアルながらにシンプルなモノトーン系のコーディネート。
今日は初めてのデートということもあり、それなりに気合を入れてみたつもりだ。だが、どうにも落ち着かない。
普段が普段なだけに、こういったのは自分のキャラではないのでは――という不安があった。かといって、いつもの服装ではあまりにラフすぎて、デートには不向きだろう。
悩み抜いた末、選んだ服をそのまま着ていくことにした。きっと大丈夫、と自分に言い聞かせて家を出る。
待ち合わせ場所は、駅前の噴水広場だ。
家が隣同士なことだし、一緒に行けばいい話だけれど、それだと今までと何ら変わりない。我ながら乙女思考だとは思うが、少なくとも初回くらいは恋人らしい体験をしてみたかった。
(ヤベ、緊張してきたっ)
駅前に着くと、すでに明の姿があった。
ロング丈のTシャツの上にジャケットを着ていて、足元はスニーカー。毎度のことながら、ラフな雰囲気なのに大人びて見えてしまうのがズルい。
「よう、早いな」
すぐに気がついたらしく、明はスマートフォンから視線を上げて声をかけてくる。
「明も。まだ十分前じゃん」
「まあな、遅刻なんてしたくなかったし。……つーか、今日の服いいな」
「!」
思いがけないタイミングで微笑まれた。まさか褒められるとは思っていなかったため、つい反応が遅れてしまう。
「お、おうよ。明だって……その、カッコいいよ」
「そりゃ、どーも」
「なんだよ。言われ慣れてる顔しやがって、このモテ男め」
「ンなことねえし。千佳から言われるのが、何倍も嬉しいに決まってんだろ」
こちらへの想いを隠さなくなった明は、なんというか無敵だ。
内心ではずっとそのようなことを考えていたのだろうか。今まで散々一緒にいたというのに、照れ臭くてかなわない。
「いーから行くぞっ、時間勿体ねえ!」
気恥ずかしさを誤魔化すように口にして、千佳は明の腕をぐいぐい引っ張ったのだった。
ともだちにシェアしよう!