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第7話 一緒にいると触りたくなる(4)

「ほら」 「んっ……ん~、ほろ苦でうま~」  ぱくりと大口で一口味わう。濃厚な抹茶の風味が上品で、ほろ苦さの中に生クリームやチョコレートの甘味がほんのりと感じられた。  どちらも甲乙つけがたい美味しさだ。やはり両方注文してよかった――満足感を味わっていたのも束の間、ハッとして千佳は固まった。 (いやいや、「あーん」じゃねーよ。こんなんバカップルみてーじゃん……)  今さらながら、自分の行動にツッコミを入れてしまう。  いつも何も考えず、このようなことをしてきたというのか。安田たちの言葉にも頷ける。これでは、明にベタベタしていると思われても仕方ない。 「気づかんかった」千佳は呟いた。 「は?」 「俺らさ、今までフツーにハズいことしてたのなって」 「気づくの遅すぎ……いつもベタベタしてきやがって」  呆れ顔でため息をつかれれば、こちらとしては平謝りするしかない。 「すんませんした……」 「とっくに慣れたっつーの。それにもう、何を思ったって隠さなくて済むし」  自分の口元を指し示しながら明が言う。「クリームついてるぞ」という無言の指摘に、千佳は慌てて唇をなぞった。 「ん、どこ?」 「反対だって」  いまいち位置がわからずにいると、すっと明が手を伸ばしてきた。そのまま親指の腹を使って、唇の端についていた生クリームを掬ったかと思えば、 「――……」  ちゅっ、という軽いリップ音とともに舐め取る。一連の動作があまりに自然だったものだから、ついされるがままになってしまった。 「ベタかよっ」 「お前がな」  すかさず言い返されて、ぐうの音も出なくなる。悔しさに睨みつけていたら、明はからかうように舌先をべーっと出してきた。  昔と変わらぬ子供じみたやり取りに、二人してフッと微笑みあう。こういった時間をずっと積み重ねてきたのだと思うと、愛おしく思えてならなかった。

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