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第7話 一緒にいると触りたくなる(5)

       楽しい時間はあっという間に過ぎ、帰路についた頃には夜のとばりが下りていた。  日中は日差しがあって暖かかったものの、日が落ちれば気温はぐっと下がり、風が吹くたびに肌寒さを感じる。季節が冬に近づいている証拠だ。 「寒くねえか?」  駅を出てしばらく歩いたところで、明が口を開いた。こちらが返事をする前に、彼は指を絡ませるようにして手を繋いでくる。 「あ……」 「手、冷えてんじゃん」  二人の体温はそれほど差がない。強いて言うならば、千佳の方がやや低いといったくらいだろう。  けれど、そんなものは野暮だ――千佳はそっと明の手を握り返した。  寒空の下、繋いだ手を軽く揺らしながら歩いていく。この時間の住宅街は閑静で、すれ違う人もおらず、二人の足音が静かに響くばかりだった。 「なあ、明。今日楽しかった?」 「当然だろ。お前と一日過ごせて楽しかった」 「へへっ、俺も! 今まで何度も一緒に遊んだりしたけどさ、今日は特別な感じした」  そうこう話をしているうちに自宅が見えてくる。楽しかった初めてのデートもここまでのようだ。  名残惜しさに歩くスピードが遅くなっていく。遠回りでもすればよかっただろうか、と少しだけ後悔した。 「なんかマジ楽しくて、帰りたくなくなってきたし」  独り言のように呟く。言ってもどうしようもないとは思うけれど、言わずにはいられなかったのだ。  勿論、冗談めかすつもりではいたので、すぐに笑って言葉を続けようとした。が、不意に明が足を止めたので、タイミングを逃してしまう。  振り返ると、真剣な眼差しとかち合った。 「なら、ウチ来るか?」 「えっ」 「泊まってけばいいんじゃねえの? ……別に、無理には誘わねえけど」  明は気恥ずかしげに視線を逸らす。まだ別れたくないと思うのは、自分ばかりではなかったらしい。  答えなんて一つに決まっている。胸の高鳴りを感じながら、千佳はしっかりと頷いた。 「い……行く。まだ明と一緒にいてえ」  顔の熱がじわじわと上がっていくのを感じる。  少しの間のあとに、明が「俺も」と小さく返してきて、あまりにも甘ったるい空気に頭がくらりとした。 「きっ、着替えとか持ってくるわ。母ちゃんにも言っておかねえとっ」  居たたまれなくなって千佳は言った。  明とは一度そこで別れ、自宅に着くなり大慌てで支度をする。母親に話したら、何のことはないように快諾してくれたけれど、千佳は緊張感でいっぱいだった。  明の家にはしょっちゅう遊びに行っていたし、泊まることだってあった。とはいっても数年前の話だし、今までとは事情が明らかに違う。

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