8 / 10

真実

side:リシェ 視界が…真っ白。 ここは何処? 身体が動かないのに、高い場所で見下ろしてるみたいな。 「光神。」 え、誰? 「忘れてるんだね。神判の術はボクが君に教えたんだよ。」 そうだ……僕が封印されてる時に…。 今よりもずっと遥か昔…。 封印の中で眠っていた僕に、突然届いた声。 「光神様!どうか願いを叶えてくれ!」 強い願い…。 僕は封印されていたけど、魂だけがその強い願いに引き寄せられた。 「僕でいいですか?」 声を出してみたら僕の方を見てくれた。 ちゃんと見えるし聞こえるんだと思うとホッとした。 「光神……様なのか?」 「は、はい、そうです!」 何か疑われてる? 僕が頼り無さそうに見えるとか? 「あ、えーと、他の神がいいなら僕は…。」 「……光神様……俺と付き合ってくれ!」 「え…?あ、御免なさい、僕は男です。」 「わかっている。」 あ、わかってるんだ。 「あ、でも他に何か願いがあったんじゃ?」 僕と会う前に切実な思いを感じた。 願い事は違った気がする。 「…光神様は破壊神を知ってるか?」 急に眉を潜めた彼が問い掛けて来た。 「破壊神…?聞いた事が無いけど……。」 僕が封印されてる間に新たに生まれた神なのかな? 「俺は今日の夜処刑される。俺が破壊神の器の運命だと予言されたから。」 「しょ、処刑!?今、逃げれば…。」 「逃げる事が出来ても、次に待っているのは破壊神になる運命だ。」 確かにそうだ。 「…差し支えなければ、わかる範囲で破壊神になるとどうなるのか教えてくれませんか?僕は封印されてるから、その辺疎くて…。」 「封印!?こんなに可愛いのに……。」 「ん?」 後半の声が小さくて聞き取れなかった…首を傾げてしまう。 「……破壊神は神をも滅ぼす危険な存在らしい。だから器を即処刑せよと神託が下っている。そしてそれは死して転生しても、また同じく器になる。それが永遠に繰り返される。破壊神が滅ぶまで。」 死んでも駄目なんだ…。 この人は勝手に選ばれたのに、生まれ変わっては殺される。 「貴方は破壊神になってしまえば、永遠に殺される運命からは逃れられますよね?」 「破壊し殺す運命ならば…殺される方がましだ。」 この人は優しいんだ……とても。 「…封印されてる僕だけど、解放されてからでも、貴方の力に必ずなると誓います。」 笑顔でそれだけ告げた。 頼りない事しか言えないのが辛い。 「…光神様……俺と…結婚してくれ!」 辛い運命なのに…強いな、この人。 僕も彼ぐらい強ければ、姉さんを悲しませなかったかもしれない。 この人の強さにあやかりたい。 「そうだね、それもいいかも…。」 彼のすぐ傍に移動する。 彼と僕との間には、人界とを分ける見えない壁が存在する。 彼に触れる事も、触れられる事も出来ない。 「光神様……。」 彼は少し赤い顔で僕をうっとりと眺める。 「僕はリシェ。」 彼には愛称で呼んで欲しいと思ったから。 「リシェ…。」 「もしも僕が封印から解き放たれて、貴方が破壊神の運命から逃れられた時…もう一度、申し込んでくれますか?」 「受けてくれるのか?」 初めて彼は明るい表情をした。 「僕は必ず貴方が破壊神の運命から逃れる為の、僕に出来る限りの力を貸すと約束します。だから、貴方も足掻いて下さい。」 足掻けば足掻く程、運命は近寄って来る気もする。 でも、きっと彼ならば…。 見えない壁に互いが近付いて、壁越しに、一瞬だけのキスをした。 「俺の名前は無い。」 闇の人間は人権が無いと聞いてたけど、そんなに酷かったんだと思い知らされる。 「ちょっと待ってて下さい。」 僕は彼の魂に呼び掛ける。 魂の名前はずっと、生まれ変わっても変わらない。 この世界以外に生まれ直しでもない限り。 「貴方の魂の名前は…『アレク』。」 僕はハッと意識を戻した。 「あれは…アレク様だったんだ…。」 アレクとリシェの呼び方は、運命だったんだ。 次に見た光景は、僕が人間の『リシェール・ファルセア・シュゼ・ルキウス』として、自害した時。 「リシェの仇を取る…!俺は…全てを赦さない!」 アレク様は使ったばかりの闇魔法を撒き散らしながら、帝国の玉座から地下に降り、僕の亡骸を安置した後、その奥の小さな祠に手を伸ばす。 あれは…神の核。 怒りに満ちたアレク様は、二つ並んだ核を見ている。 まさか……あれが破壊神の!? ――――アレク様、駄目っ!!―――― 今の僕は漂ってるだけの存在。 声も届かないし、触れる事も出来ない。 アレク様は躊躇した結果、闇神の核を取った。 これも正解では無いけど、最悪の事態は免れた。 「光のリシェの夫は、闇の存在でないとな。…それに、誰かと約束したような…気がする…。いや、そんな相手はリシェ以外に居ない筈だ。」 一瞬寂しそうに笑ったアレク様…。魂の記憶が覚えてくれてるんだ。 僕はいつしか涙を流していた。 アレク様が闇の神の核を己に取り込んだ時、破壊神の核が音も無く消えた事には、アレク様は気付いていなかった。 「光神、思い出した?」 封印されてる間の事は記憶から消えていた。 本来戻る筈の無い記憶だから。 「そうだったね、御免なさい。君は破壊神だね?」 気が付くと僕は、最初のこの子の居た場所…破壊神の元に戻っていた。 真っ白い髪の子供。 何故か泣いてる。 「君が邪魔しなければ、アレクは破壊神になっていたのに。器は生まれ変わっても継続するから、ボクは行き場が無くなったよ。」 「神の兼任は出来ないもんね。」 闇の神になったアレク様はもう二度と他の神になる事は無い。 アレク様は生まれ変わっても闇神だから。 「ねえ、そんなにボクは悪しき存在なの?何で嫌われるのかな…。」 「君は、もし生まれる事が出来たら、何がしたいの?」 「破壊だね。」 うん、そうなるよね。 僕は考えて笑顔で手を差し出す。 「僕がもっと楽しい生き方を教えてみせる。だから、僕に委ねてみない?」 ちょっと考えるような仕草をする破壊神。 「いいよ光神、楽しませてね。」 無表情な破壊神は、手を伸ばしてくれた。 僕は破壊神を内に取り込む。 景色が再び真っ白になった……。 目を開けるとアレク様と姉さんの顔が覗き込んでいた。 姉さんは泣いてる。 「リシェ!どこか痛むか!?」 すぐにあちこち触りながら、アレク様が僕を窺う。 「うん、平気です。全身の脱力感がちょっと…。」 起き上がるのがきついけど、三人に治癒を一応掛けた。 「術が終わったらあんたが倒れるから、どうしようかと…!」 「心配ばかりさせて御免なさい。」 「あんたが無事なら…いいわよ。」 涙を手で拭いながら姉さんは立ち上がる。 「あたしはみんなの様子見てくるから、アレク君、リシェを頼むね。」 「了解。」 姉さんが去るとアレク様が僕を強く抱き締める。 「本当にさっきまで生きた心地がしなかった。もう流石に置いて行かれるのは懲り懲りだ。」 「もう離れないって話したばかりなのに、僕も嫌です。」 力無く笑い合う。 「リシェ…これからは、永遠に共に生きて行こう。」 「はい、共に…アレク様の永遠を僕に下さい。」 「ああ、俺は生涯リシェの物だ。」 「僕も、僕の永遠をアレク様と共にしたい。」 あの時の約束、叶ってたんだ…。『もしも僕が封印から解き放たれて、貴方が破壊神の運命から逃れられた時…もう一度、申し込んでくれますか?』 アレク様が顔を近付けた。 僕は目を閉じ…壁越しじゃない、体温を感じるキスを交わす。 「っ!?」 アレク様が急に口を離す。 「そうか…そういう事か。」 「アレク様?」 「光神様、俺は破壊神にならずに済んだんだな。」 破壊神を取り込んだ僕とキスをしたからか、アレク様は過去を思い出したようだった。 「そうですね。結婚、ちゃんと申し込んでくれましたね。」 「そうだ、俺の光神リシェ、俺の過去も全てリシェの為に在る。」 「未来も下さいね?」 「ああ、勿論だ。俺の愛しい光神……。」 もう一度深いキスをした。 アレク様は僕を抱き抱え、僕が倒れてからの事を説明しながら、何処かに歩を進めている。 「リシェの術で辺りの神々や光の教団の人間が消えていった。そして術が収まり、俺達の身体が動くようになったのとほぼ同時にリシェが倒れた。」 「大きな術の反動だと。えーと、MP切れ?」 敢えてゲーマーっぽく言ってみた。アレク様が軽く笑う。 そうか、僕は…僕達は勝ったんだ。 理は僕達が正しいと選んでくれたんだ。 「そしてあれが現れた。リシェなら何だかわかるんじゃないか?」 着いたそこには、何も無い部屋の中、輝く玉座がある。 先程の技を使った僕は自然に理解していた。 「至高神の座です。あれに座れば至高神になり、その者が理の基準になる。」 これで闇の差別なんて無くなる。 アレク様と歩んで来た終着点…。 「アレク様、座って下さい。」 僕は安堵した。 アレク様はフッと笑うと、僕を下ろした……玉座に。 「あ、アレク様っ!?」 慌ててアレク様を窺う。 「その座はリシェが相応しい。」 もう座っちゃったし、苦笑を浮かべて受け入れた。 僕を光が包む……。

ともだちにシェアしよう!