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第6話

 あれから数日、何処と無く洋介君の僕に対する態度が変わったように感じる。  相変わらず代返は頼まれるが、課題は僕と一緒にするようになってからちゃんと自分でするようになった。  そして一番変わった事と言えば、いつも一緒にいる人達と遊ばなくなった事だ。  相手から誘われても断っているようだし、何よりほぼ毎日僕の家へ来るようになった。  それから……、僕に手を出すようになった事だ……。  あの一件以来洋介君から積極的に僕に触れるようになった。かといって最後まで体を重ねたか?と問われれば答えはノーだけど……。  だけどほぼ毎日彼から後ろの開発はされている。  αの僕がまさか彼に抱かれる方なのか? と、二度目に彼が僕のお尻に指を入れようとしたところで一度そう聞いてみると  『あ?俺は誰にも掘らせねぇからな』  至極当たり前のように言われ、今までΩの彼が抱く方だったのかと少し驚いたが、あの時、僕のお尻に指を入れたのはそういう事だったかと妙に納得してしまった。  だって世間一般ではΩは抱かれる方だから。  男女関係無く子を宿す事のできるΩは、基本的には抱かれる側だ。その為に男性Ωは発情期にお尻が女性器みたいに自発的に濡れる。だからその辺はどうなんだ?と好奇心では無く素直に疑問が湧いて洋介君に聞いてみると  『……、他のΩの事は知らね~ケド、俺は抑制剤飲んでれば尻は濡れない』  との返事を頂いた。  まぁ、その辺は個人差があるらしい。  それにΩの生殖器は男性Ωであれば通常よりも小さいと教わったはずだけど……、洋介君のは僕のモノより少し小さい位で、一般的には少し大きい部類に入るんじゃないかな?  僕は腐ってもαだから……、恥ずかしいケドそれなりの大きさがある。体が他のαに比べればヒョロい部類に入るのにモノのサイズはαのソレだから、バランスの悪い感じがどうにも恥ずかしくて嫌だ。  『αは昔からΩに比べて快感に対する耐性が弱そうだからな。だからネコ側だと相当気持ち良いんじゃ無いか?』  洋介君とαやΩの性について議論した時に彼はそう言っていた。αは基本的にタチ側だ。故にそれだけの快感にしか対応してこなかった。だから快感に耐性が無いっていうのが洋介君の持論。  ………………。確かに、彼が言うのも一理ある気がしている。αは相手を自分のフェロモンによって支配下に置き、性行為を行う事を昔から当たり前としてきた。だから本能的にもそういう風にできている。そうなればΩよりも快感に対して弱いというのは頷けるような……。それに彼は周りにいるαやβの人達を抱いているのだから、きっとそうなんだろう……。  僕も洋介君にお尻に指を入れられる度、何も考えられなくなるほど快感に溺れる。彼のフェロモンに包まれ、多幸感の中体中を弄られればもう好きにして欲しいと思ってしまうのだ。  まだ洋介君のモノは受け入れた事が無いから、基本的にはあの夜と同じで彼は素股で自分の欲望を吐き出す。指でさえもあんなに気持ち良いのに、洋介君のを受け入れる事ができればどれほど……。  初めて知った行為と快感は、僕を甘く虜にしている。それは思いの外洋介君が僕に対して丁寧に抱いてくれているから。慣れていない僕の体を少しずつ解し開いていく。  彼の手によって、彼好みになっていく僕の体の変化に戸惑いながらも嬉しいという感情もある。  正直、お互いの気持ちをまだ確かめ合ってはいないが、僕も洋介君も態度には出ていると思う。それに……行為の最中にあんな熱っぽい目で見られているのだ。確信して……良いんだよね……?  「本郷、今日もしっかり洋介にマーキングされてるな」  スンスンと鼻を鳴らして宮本君が横から話しかけてきた。  「アッ……っくりした……」  講義室の前にある長ベンチでもの思いに耽っていた僕は、突然声をかけられビクリッと肩を揺らす。  「悪いな、黄昏れてるところを邪魔して」  「イヤ……邪魔とかじゃ無いから……」  宮本君の言う事にボソボソと反応していると、彼は僕の横に座り  「順調そうじゃないか?」  少し面白そうにニヤつきながら僕に聞いてくる宮本君の言葉に  「……まぁ……、そう、かな……?」  ヘヘッ。と照れながら肯定するように返事を返すと  「なら良かったが……洋介の周りの奴等に嫌がらせとかはされてないか?」  次いではすぐにそんな事を聞いてくるから  「イヤ、……されてないよ」  宮本君の台詞に少しゾワッとしてしまう。それは僕も心配していた事だから。  洋介君が周りの子達の誘いを断って、僕の相手ばかりするようになった事で、大学で洋介君が僕に挨拶する時とかあからさまに嫌な顔をされるようになったし、洋介君が彼等の側にいない時なんかは、廊下ですれ違う時たまに体をぶつけて舌打ちされる。  今まで眼中に無かった僕が、突然洋介君を独り占めし始めた事にそれを好としない彼等が嫉妬の多くをぶつけてくるようになった。  まだ洋介君がいれば、彼が止めに入ったり彼等をいなしたりしてくれるんだけど……。  「そうか……。まぁ、何かされたなら俺にも言ってくれ。一応はαの端くれだからな、力にはなってやれる」  ……………。宮本君、僕もそうなんだよ?  心の中で彼にそう突っ込みを入れるが、フェロモンの弱い僕にはどうしようも無いっていうのもある。  宮本君が言ってくれているのは、フェロモンで相手を黙らせるって事だ。  αはフェロモンによって力関係が決まる。より相手よりも強いフェロモンを出せる雄が、より良い雌を獲得出来るように、これも昔から本能としてαに備わっているものだ。  そうなれば僕はαの中でも最弱な部類に入るワケで……。だからこうして宮本君も心配して僕にそう言ってくれる。  「ありがとう……、けど大丈夫だから」  「そうか、……じゃぁそろそろ移動しないか?」  これでこの話は終わり。だと宮本君の方から区切りをつけてくれて、彼はベンチから立ち上がると僕にそう言ってくるから  「そうだね」  次の講義も宮本君とかぶっているので、僕も立ち上がると二人並んで歩き出す。  次は選択授業の為、いつもよりは少し小さい教室で授業を受ける。校舎の三階まで上がり、ズラリと並んだ教室の前を歩いているとギャハハッ。と空き教室から楽しそうな笑い声が聞こえて、僕と宮本君は何気なくガラスが嵌め込まれているドアから中に視線を向ければ、洋介君を中心にαやβの人達が楽しそうに話をしているところだった。  「洋介~、今日は一緒に遊べるんだろう?」  「良い加減相手して欲しいよ~」  「あ~~、まぁ、そのうちな……」  周りの人達から誘われているが、洋介君はのらりくらりと話を躱していると、数人いるうちの誰かが  「てかさ、まさかあの根暗君に本気になって無いよね?」  なんて僕の事が話題に出ると、周りの人達から一斉に  「まさか~ッ、洋介があんな奴真剣に相手にするワケ無いだろッ」  「そ~そ~、どう見たって不釣り合いじゃん?」  「まぁ、一緒には歩けないよね?あの髪型に服装だし」  「洋介の方が恥ずかしいだろ?」  楽しそうに僕の悪口を言って、洋介君の反応を見ている周りと一緒で、僕もコクリと喉を鳴らして彼がどう答えるのか気になってしまい足が動かせない。  すると彼は一つ大きな溜め息を吐くと  「はぁ~……、まぁ、そうだな……」  嫌そうに歪めた口元から彼がそう言葉を発した途端に  「やっぱ洋介もそう思ってんじゃんッ!」  「ギャハハッ!」  と、本当に楽しそうに、そして安心したように周りが騒ぎ始めたのと同時に、僕は血の気が引いていく。  顔を下に向け、バッとその場から踵を返して走り出すと  「アッ……オイ」  何故か宮本君も僕の後を追って走り出してくるが、僕は彼を気にかけてあげる余裕が無い。  「オイッ、本郷!」  パシッと宮本君に手首を掴まれ、どこに行くとも無い足を止められ、僕は力無くその場に立ち止まると  「………ッ、何してんだろうね、僕って……」  自虐的に笑いながらそう呟くが、鼻の奥がツンとして視界がぼやけていく。  笑う事に失敗してしまった僕は、それでも笑わっていないと今までの自分が可哀想過ぎると無理矢理口角を上に引っ張り上げて  「大丈夫だよ宮本君……、あんな事、最初から解ってた事だから……」  そう、最初から解ってた事じゃないか。自分のコンプレックスを隠す為に前髪を伸ばして、服装なんて着られればそれで良いと努力してこなかった。  それでも洋介君がそんな僕を構ってくれたから、それに甘えて何もしなかっただろ?  結局は自分自身のせいなのだ。相手の、洋介君の事なんて考えてなくて……。自分の事しか考えてなかった結果がコレ。  そりゃぁ恥ずかしいよな?野暮ったくてお洒落に興味が無いヲタクを自分の隣に置くなんて……。しかも、αって言っても最弱の僕だし……。  笑っている頬に、耐えきれなくなった水滴がツッと道筋を作ると  「本郷、お前……金持ってるか?」  唐突に宮本君が僕にそう尋ねてきて  「は……ぇ?」  僕はワケが解らないまま、彼の質問に気の抜けた返事をする。

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