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二人で初めての初詣 3
お参りを終えて列から脱出して漸く一息吐いた。
「ねえ、絢斗は何をお願いしたの?」
「え? 健康とか」
「とかって……。でも、そんな絢斗の分も僕が一生懸命お願いしておいたから」
「何お願いしたの?」
オレが尋ねると、内緒、と言って教えてくれなかったけど。
何か楽しそうな顔をしてるから、その顔が見られたならいいかと思った。
+++
屋台も覗くことにして、人の波に乗りながら歩く。
色々な店があって活気にあふれていたけど、オレはまだお腹も空いていなくてはしゃぐ湊兄を見て笑顔を返すことしかできなかった。
と、いうか。
さっきからどうもくらくらするというか。
早起きしたから眠いだけだと思ってたけど……。
「あ、焼きそばも美味しそうだよ? 何食べたい?」
「ん? うん。どれでもいいよ」
「またそんなこと言って……って、絢斗?」
「……」
あ、マズイ。
コレ、人酔いしたかも。
心配させる訳にはいけないと思って笑ったつもりだったけど、湊兄がオレを見てギュッと手を握って歩き出す。
「え、ちょっと……」
俺が声を掛けても無視をして何かを必死に探している。
人混みから漸く抜け出すと、神社の一角の休憩所に辿り着く。
ガラリと引き戸を開けて中に入ると、暖房も入っていて暖かかった。
いくつか長い椅子が並んでいたけど、少し離れて目立たないところだったせいか休んでいる人は幸いにもいなくてガランとしていた。
湊兄は奥の方まで歩いていって、外からも目立たない長椅子の前まで来ると俺を一旦座らせて、自分も隣に座る。
「やっぱり、顔が真っ青だ。気づくのが遅れてごめん」
「え……」
「僕が無理を言ったから。最初から苦手だって言ってたのに無理強いしてごめんね。本当にダメだったのに気づいてあげられなくて」
呆気にとられていると、湊兄が優しくオレを撫でる。
確かに気分が悪くなってはきてたけど、こんな顔をさせたかった訳じゃなかったのに。
「ちょっと寝不足なだけ、だから。湊兄のせいじゃない」
「嘘」
「嘘、じゃない。確かに人混みは苦手だけど、オレも湊兄と一緒なら……」
どうしたら笑ってくれるだろう?
確かに今、具合はあんまり良くないけど……。
休めば良くなるはず。
だとしたら……。
「ねぇ。じゃあ、休ませてくれる?」
「え?」
「膝、貸して。酔ったけど……少し休めば大丈夫、だから」
キョトンとしている湊兄の膝を勝手に借りて椅子に寝転がる。
恥ずかしいけど、幸い人がいないし。
湊兄の膝は柔らかくて何だか安心する。
「ん……ね、湊介。早く元気になれるように、撫でて」
「……分かった」
オレの注文に優しく触れた手が髪の毛を梳いていく。
一定のリズムで撫でられると気分が少しずつ落ち着いてくる。
目を瞑っていると、大分楽になってきた。
「元気になってきた?」
「オレ、撫でてもらうの、昔から嫌いじゃないから。それに、膝枕してもらってるし。こういう時は休めば平気」
「絢斗が甘えてくれるの、嬉しいよ。これで具合が良くなるなら、いくらでも撫でてあげる」
誰も来ないことを祈りながら、少しだけ、優しい時間を過ごす。
何分かゆっくりと休んだおかげで気分はすぐに良くなってきた。
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