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二人で初めての初詣 4
「ありがとう。もう、大丈夫」
「ホントに?」
俺がまだ寝転んだままでゆっくりと目を開けると、湊兄が上から顔を覗き込んでくる。
「ちょ、だから、近い……っ」
「うん。顔色良くなってきたね。良かった」
間近で微笑まれると、改めてこの状態が恥ずかしくなってきた。
オレが腕を伸ばして湊兄を押し返すと、クスクスと笑い声が降ってくる。
「元気出てきたみたいで、本当に良かった」
「だから、休めば平気だって。言ったし。そろそろ起きるから」
オレの意図を察して漸く身体を離してくれた湊兄の膝から起き上がる。
少し伸びをすると、気分がスッキリとしてきた。
「心配させて、ごめん。膝貸してくれて、助かった」
「こちらこそ。早めに帰ろうか? それともどこかお店に入ってもう少し休んでから……」
安心したせいか、オレの腹がこのタイミングでぐぅと鳴った。
……めちゃくちゃ恥ずい。
「お腹空いた?」
「湊兄、焼きそば食べたいんでしょ? 付き合うから」
「そんなこと言って……でも、大丈夫なら少し回ろうか」
ニコと笑ってくれた湊兄に安心して、オレも笑い返す。
今度こそやり直しのつもりで、ゆっくりと立ち上がる。
「人、少しくらい減ってくれればいいのに」
「どうだろう? 無理しないで空いているところ探そうか?」
「でも、並んでる方が美味しそうな気がしちゃうけど」
「それもあるある、だよね」
二人で笑いあいながら休憩所を後にする。
さっきあまり見れなかった屋台のところまで戻る。
人はまだいるけど、湊兄がそっと手を繋いでくれると安心する。
端の方の屋台で焼きそばを買って、近くに開いているベンチに座る。
「ここで待ってて。もう少し買ってくるから」
「え、オレも……」
言いかけたオレに笑うと、湊兄は屋台の方へと消えていく。
どうしたものかと焼きそばを膝の上においてぼんやりと待っていると、すぐに白のビニール袋を二つぶら下げた湊兄が帰ってきた。
「食べてていいのに。あ、お好み焼きとね、イカ焼きも買っちゃった。あと、コッチはデザートのチョコバナナ。飲み物はお茶とウーロン茶を買ってきたけど……」
「そんなに買ったの? 買いすぎなんじゃ……」
「食べきれなかったら持って帰って家で食べよう? でも焼きそばは食べちゃおうか」
隣に座った湊兄が笑って指差すので、オレはフタを開けて割り箸を割る。
先に食べろと言うので、オレから食べる。
食欲をそそるソースの香りと、定番の味はやっぱり美味しかった。
「あ、青のりついてる」
「どこ……」
オレが取ろうとすると、先に唇に指先が触れた。
思わず固まってしまう。
「はい、取れた。でもまた食べたらついちゃうかな」
「……どうせ歯にもつくだろうし、いいよ。湊兄も食べなよ。焼きそば? お好み焼き?」
「じゃあ、お好み焼き食べる。はんぶんこしよう」
照れ隠しにまくしたてて、焼きそばをもぐもぐと食べ進める。
湊兄も楽しそうにお好み焼きのパックを取り出して、割り箸で丁寧に切り分けていく。
よくある光景だけど、人混みだろうとなんだろうと、一緒に過ごすのが楽しいから。
結局、来て良かったかもって、思った。
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