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第7話
タクシーから降り、無言で部屋に入る。
キス……、しちゃダメだよな。
まずはさっきのこと、きちんと弁明しないと。
「先輩、あのね、さっきのは…」
「………浮気相手?」
「違います!!……その、昔のセフレ…です……。」
浮気相手ではないけど、セフレというのは事実だ。
先輩に言いたくないけど、これは過去の俺が招いた結果だから言い訳できない。
案の定、先輩は傷ついた顔をした。
そんな顔、させたいわけじゃないのに。
「キスなんかするつもりなかったんです。トイレに行ってたら、あいつがついてきてて…。隙を見せた俺が悪かったです。嫌な思いさせて、すみませんでした。」
「………俺が寝てる間に何があったんだ?」
先輩がやっと話を聞いてくれそうな返答をくれた。
俺は間髪入れず答えた。
「先輩が寝た後、あいつが来たんです…。麗子ママもすぐに帰そうとしてくれたんですけど、すげー頑固な奴だから、そう簡単には帰らなくて…。」
「あ…っそ……。」
先輩の反応は良いものではなかった。
突き放すような、そんな反応。
「先輩……、怒ってる…?」
「怒ってねぇよ。……悪い。シャワーしてもう寝る。」
「先輩っ…!」
先輩は俺から顔を背け、浴室の方へ行ってしまった。
どうしたらいい?
どうすれば先輩は許してくれる?
先輩に非は全くない。100%俺が悪い。
だから俺は謝るしかなくて…。
ここで待っててもいいかな…?
脱衣所で先輩が上がるのをじっと待つ。
5分ほどして先輩が出てきて、俺を見てまた顔を逸らした。
「何……。」
「先輩…、冷たっ!?え、なんで?」
抱きしめようとして先輩の体に触れると、先輩の体は氷のように冷たかった。
もしかして冷水浴びた?
なんでそんなこと…。
「いいだろ、どうでも。」
「よくないです。もう一回お風呂入りましょう?」
「いいって…!」
パシッと手を払われて、内心すごく落ち込む。
でもこのまま先輩のこと放ってはおけなかった。
「何もしませんから…。」
「………」
「お願い。先輩に風邪引いてほしくない…。」
「……わかったよ。」
渋々諦めてくれた先輩の腕を引いて、浴室に入る。
体をお湯で流して湯船に浸かり、冷たくなった先輩を抱きしめる。
何か言われるかなと思ったけど、先輩は何も言わなかった。
俺は先輩を離したくなくて、力強く先輩を抱きしめた。
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