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第8話
先輩はお風呂から上がって髪を乾かして、リビングにも寄らず真っ直ぐに寝室に行ってしまった。
俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取って、すぐに先輩の後を追いかけて寝室に入る。
先輩は俺から距離を取るように、ベッドの隅に寄って眠っていた。
「先輩…、おやすみなさい…。」
近くにいるのにすごく遠く感じる。
先輩は俺に声をかけられるのも嫌なのかな…。
小さく呟いた声は先輩には届かなくて、おやすみの一言すら返ってこなかった。
こんなにも好きなのに。
大好きなのに、どうしてこうなってしまったんだろう?
さっきまではいつも通りだったのに、全部過去の俺が招いたことが原因でこうなった。
どうしたらいい?
どうすれば俺の過去は清算できるんだろう?
夜は一睡もできなくて、朝の6時に先輩はベッドから出ていった。
先輩からまた拒絶されるのが怖くて、俺は時間を空けてベッドから出る。
寝室から出ると、先輩はネクタイを結び、玄関に立っていた。
「先輩、もう行くの?」
「あぁ。連休明けだし、整理したい書類あるから。」
「……わかりました。また後で。」
やっぱり避けられてる。
小さく手を振るが、先輩はそのまま家を出てしまった。
寝不足で回らない頭を働かせながら、先輩に許してもらうための策を練る。
謝り倒して許してもらう?
セックスして全部忘れてもらう?
いや、後者は最低だ。ダメだ、俺のバカ。
うーん…と唸っていると、スマホの画面が光り、通知を知らせる。
知らないアドレス。
一応中身を見る。
『また会いに行ってもいーい?ナツに会って、気持ち再燃しちゃった!やっぱりエッチしたい。セフレに戻ろ?』
絶対に那瑠だ。
つーか、何で俺のアドレス知ってんだよ。
無視してると、もう一件。
『職場特定しちゃったから!無視するなら会いに行くからね!』
最悪。
仕方なく返信する。
『職場には来るな。先輩にも会うな。一度話をしよう。場所は○○駅のカフェ。今日の19時。』
『ダメ。場所は僕が決める。昔の待ち合わせ場所に19時。』
昔の待ち合わせ場所…?
んなの、ラブホじゃねぇか。
『無理。カフェに来い。』
『やだ。じゃあ職場に行く。』
拉致があかねぇ。
仕方ないな…。入らなきゃいいだろ…。
『わかった。19時に行く。話するだけだから。』
『はーい♡待ってるね!』
そこで那瑠との連絡は途絶えた。
今日ちゃんと話をして、あいつには今後俺と先輩の前に顔出さないようにしてもらう。
誓約書書かせりゃいいか。
もう二度と俺と先輩との仲を乱してほしくない。
俺は頭を抱えながら出社した。
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