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第10話

Aquaの近くにあるラブホテル。 大学生の頃、よく那瑠と使ってたホテルだ。 二度と来ないと思ってたんだけどな。 「あ!ナツ〜!」 約束の19時より少し早いが、那瑠はもう着いていた。 ハイブランドの服に、ハイブランドのバッグ。 可愛い容姿を利用して、たくさんのパトロンに貢がせてるんだろう。 「待ってたんだよっ♡ね、入ろ?」 「入らねぇよ。話したいだけだから。」 「えー?中で話そうよ?」 「勘違いされたくないから無理。そもそも話って、お前とは二度と会わないって話だから。」 「何それ。酷ーい。」 腕に抱き付かれて、思わずため息が出る。 これが先輩だったら、どんなに可愛いか。 早くこいつに誓約書書かせて、家に帰りたい。 「誓約書も書いてもらうからな。」 「はいはい。とにかく中入ろーよ?」 「だから中には入らないって。」 「いつもの部屋に来てくれないと書かないもーん。お話も聞かなーい。」 「おいっ!……ったく。」 ベーッと舌を出して中に入っていく那瑠を追いかける。 誓約書書かせねぇと、先輩に何されるか分かったもんじゃないし。 こいつ、マジで何するか分かんねぇもんな。 「言っとくけど、セックスはしねぇからな。」 「いいじゃん、先っちょくらい。」 「無理。」 部屋のボタンを押して、一番短い時間を選択して入室する。 懐かしいと思いたくもないけど、よく使っていた見慣れた部屋だ。 「懐かしい〜!ナツって立ちバックが好きだったよね。ここ、鏡張りの壁があるから、ナツの顔見えて好きだったんだ〜♡」 「おい。さっさと書け。」 「もぉ〜。つれないなぁ。」 那瑠はブツブツ文句言いながら誓約書に目を通す。 全部読み終えて、俺を見上げた。 「これ、僕が得すること何もなくない?」 「ないよ。先輩を守るための誓約書だから。」 「そんなにあの人のこと好きなんだ〜。ふーん。」 「絶対に何もすんじゃねぇぞ。」 「好みじゃないから手は出さないよ〜。ナツのこと取ったのは許さないけどね。」 「は?」 こいつ、まさかもう何かしたんじゃねぇだろうな? 嫌な予感がしてきた。 「おまえ、先輩と会ってないよな?」 「ん〜?どうだろ?」 「おい。とぼけんな。」 「ナツってそんな煩い男だったっけ〜?朝にコーヒー奢ってもらったよ〜?」 「は?会ったのか?」 「うんっ!でもやっぱりナツには釣り合ってないよねぇ。改めてそう思っちゃった。」 こいつ……。 だから先輩の顔色悪かったのか? 目赤かったのは、泣かされたのか? 「誓約書書かねぇと殺す。」 「怖っ。わかったわかった。書くよぉ。仕方ないな。」 那瑠が誓約書に名前と捺印を押したのを確認して、俺は急いでホテルから飛び出した。

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