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第12話

「ただいま。」 大雨で電車が遅延してて、早く先輩に会いたくて、駅でタクシーを拾って帰ってきた。 なのに、家は鍵が閉まってて、真っ暗だ。 「先輩?まだ帰ってないんですか?」 先に帰って待っててと伝えたのに、どこに行ったんだろう? 寄り道? 雨すごいけど大丈夫かな。 靴を脱いでリビングに向かっていると、まだ俺が歩いていない床が濡れていることに気づく。 水滴は先輩の部屋に続いていて、恐る恐る先輩の部屋のドアを開けて灯りをつける。 「先輩…?」 先輩の部屋にも人影はない。 それどころか、いくつか物がなくなっている気がした。 パソコン、スマホの充電器、仕事の資料。 クローゼットを確認すると、下着類もごっそりと見つからない。 それに、先輩が出張の時に使っているはずのキャリーケースもない。 まさか…。 そんなはずないよな? スマホを開いて、先輩に電話をかける。 繋がって…。お願い……。 『おかけになった電話をお呼び出しいたしましたが、お繋ぎできませんでした。』 先輩…、お願い……。 願っても、何度かけても同じアナウンスが流れる。 何もありませんように…。 心配と不安が襲ってくる。 とにかく探しに行こうと外に出ようとした時、玄関のドアにあるポストが音を立てた。 中を確認すると、そこには先輩の鍵が入っていた。 「嘘……だろ……?」 先輩が出て行った? なんで? 昨日の一件で? でも、明日ちゃんと話そうって、今朝までそう言って…。 「……!!」 そうだ、朝に那瑠と会ったって…。 その時何か言われたのか? 俺の言葉じゃなくて、那瑠の言葉を鵜呑みにしたのか? いや、違う…。 職場では明日話そうって言ってたんだから、あの後何かがあったんだ。 まさか、さっきホテルに入るのを見た…とか…? もし、そうだとしたら先輩はきっと深く傷ついた。 俺だって、もし先輩が俺以外の誰かとホテルに入っているところを見たら、胸が張り裂けそうな気持ちになる。 「先輩…どこっ…?」 大雨の中、思い当たる場所を探し回る。 傘はほぼ無意味で、全身濡れて気持ち悪い。 そんなことどうでもよく思えるくらい、今は頭に先輩のことしか浮かばなかった。 先輩の前の家、初めて繋がったホテル、水族館…。 色んなところを探し回ったけど、先輩は見つからなくて、俺との思い出の場所以外を考えた時にたどり着いたのは、柳津さんの家だった。

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