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第13話
インターホンを連打し、出てくるのを待つ。
「なんだよさっきから……、って、城崎?!」
「ゲホッ……、せ、先輩…いますか…?」
「いや、お前もなんでそんなずぶ濡れなんだよ…。」
「"も"ってことは、いるんですか?!」
ドアをギィッと開けると、知らない靴の中に一つだけ、見知った靴があった。
先輩のだ。
「先輩!!せんぱっ…んぐ!!」
「静かにしろって…。あいつ、やっと寝たんだよ。」
「むーーっ!んん!」
「落ち着けよ。おまえ、綾人に何したんだよ?」
中に入ろうとすると、柳津さんに止められ、手で口を塞がれる。
それどころか、不審な顔で睨まれる始末。
「何も…。今日謝ろうとして…っ」
「あいつのあんな顔、初めて見た。何があったか知らねぇけど、今日は帰れ。明日、俺からも帰るように話しておくから。」
「でも…っ」
「焦る気持ちはわかるけどさ、綾人もいっぱいいっぱいなんだよ。待ってやれよ。」
「………」
柳津さんは大人だ。
俺は今すぐ先輩を抱きしめたいなんて、独りよがりなことばかり考えているのに。
そうだよな、冷静にならなきゃ…。
こんな俺じゃ、先輩に幻滅される。
「柳津さん…。」
「ん?」
「さっき、先輩もずぶ濡れだったって…。風邪引いてないかな…。」
「一応すぐ風呂入れたし、今は温かくして寝てるから大丈夫だろ。」
「もし熱出て辛そうだったら、お粥作ってあげてください。卵多めに入れて…、あ、あと薬は…」
「はいはい。あとでメールしといて。おまえも早く帰って温まりな。風邪引くぞ。」
「俺はいいんです…。ねぇ、先輩寝てるなら、一瞬だけ顔見てもいいですか?」
「ん。好きにしろ。起こすなよ?」
柳津さんは俺にタオルを渡した。
軽く全身の水気をとって、案内される方へついていく。
リビングと隣り合った寝室の床に布団を敷いて、眠っている先輩を見て安堵のため息をついた。
「先輩、ごめんなさい……。」
「…………」
「家で待ってますから。早く帰ってきてくださいね。」
ぐっすりと眠る先輩の額にキスをして、俺は先輩から離れた。
柳津さんでも見たことないくらい、先輩は酷い顔をしていたのだろうか。
俺がそんな顔にさせてしまったのか…?
出ていくってことは、そういうことだよな…。
「柳津さん…、癪 ですがよろしくお願いします。」
「おう。」
「先輩、帰ってきてくれますよね…?」
「それはお前が何したかによると思うけど。まぁ一度話すようには伝えとくから。」
「よろしくお願いします……。」
俺は深く頭を下げて、柳津さんの家をあとにした。
家に帰るまでの道のりがやけに遠く感じる。
雨の音が異常に煩くて、俺は両手で耳を塞いだ。
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