16 / 242

第16話

ピンポーン…… インターホンの音に目を覚ます。 「先…輩……?」 ヨロヨロと玄関に向かい、扉を開ける。 「お待たせ。」 先輩…、先輩だ…。 「先輩っ…!」 「うわっ?!あっつ!!」 「先輩、ごめん…。ごめんね…。」 「何?ちょ、待って…」 「先輩、好き。愛してる。」 「待ってってば…!」 目の前にある人影を抱きしめる。 ヤバい。先輩だ。 先輩に会えた。 「先輩……」 『……城崎、風邪?大丈夫?』 「大丈夫。それより、先輩が欲しい…。」 『俺も。城崎が欲しい…。キスして…?』 「うん。先輩、好きだよ。大好き…。」 先輩が俺に向かって微笑みかける。 可愛い。 嬉しい。 夢?じゃないよな…? 「先輩、クラクラする…。」 『馬鹿だなぁ。看病してやるから、もう少し寝とけ。キスもセックスも、後で満足するまでさせてやるから。』 「うん。愛してるよ、先輩。」 腕の中で幸せそうに笑う先輩にそう伝えると、先輩の顔がどろっと溶けて、那瑠の顔に変わった。 『ふふ。僕も♡』 「…………!!」 ばっと目を覚ます。 部屋には誰もいなくて、俺はぐっしょりと汗をかいていた。 最悪な夢見た……。 途中まで幸せな夢だったのに。 先輩の気配はなくて、静かな空気に包まれる。 時間は……19時……。 ……19時?! スマホを見ると、那瑠からメッセージが入っていた。 『誓約書、書いておいたよ。机の上、置いてるから。今度こそバイバイ。会いたくなったらいつでも連絡してね♡』 机の上…? ズキズキ痛む頭を抑えながら、ダイニングに向かう。 テーブルには那瑠のサインと捺印の入った誓約書、それと果物やゼリーが入った袋が置かれていた。 なんで、こんなところに…。 あいつ、中に入ったのか? ………思い出せない。 俺が寝てる間に?鍵かけ忘れたっけ…。 いや、さすがに熱に侵されてても、俺のことだから玄関先で書かせていると思う。 これで那瑠に連絡する理由も、会う理由もなくなった。 先輩にちゃんと向き合うための条件が揃った。 あとは風邪治して出勤するだけだ。 透さんに連絡すると、もう東京に戻ってきているらしかった。 お願いすると、迎えにきてくれて、クリニックで解熱鎮痛剤を点滴投与してくれて、二日後にはなんとか出勤できるほどには回復した。

ともだちにシェアしよう!