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第19話

先輩…、帰ってきて…。 お願いだから。 一人のベッドは淋しくて、冷たくて、眠れない。 大好きな先輩の笑顔が見たい。 嬉しそうに俺の名前を呼ぶ声が聞きたい。 俺の腕の中で桃色に染まる肌を愛し尽くしたい。 「……っは、はぁっ…はっ…」 「先輩…っ?」 「…く…るし…ぃ…っ、はっ…、助け…て…っ」 先輩はまた過呼吸を起こし、ボロボロ涙をこぼした。 原因は俺しかない。 俺以外の原因が思い当たらない。 人気(ひとけ)のないところに先輩を移動させ、優しく抱きしめながら、ゆっくりと背中をさする。 俺が原因ってわかってるけど、離したくない。 先輩、ごめんね。 「大丈夫…。ごめんね、怖かったですよね…。ごめんなさい…。」 「ふっ…ぅう…」 「大丈夫、大丈夫…。」 一定のリズムで背中を優しく叩くと、先輩は少しずつ息を吸い始めた。 「……はっ…、はぁ…っ、ふぅ…」 「そう…。上手…。ごめんね、先輩。…ゆっくり待ちます。……先輩が聞く準備できるまで、ちゃんと待ちますから…。」 こんな状態の先輩に話すのは間違ってる。 今話して、もしパニックになったりでもしたら大変だ。 柳津さんの言う通り、先輩のペースに合わせるべきなのかもしれない。 でも、どうしても……。 「俺のこと…、拒絶しないで…。連絡もしてほしい…。業務的な内容でもいいですから…。先輩との関係を断つのは嫌なんです…。」 先輩と一切連絡を取れないのは嫌だ。 メッセージは既読もつかなくて、電話は繋がりすらしなくて、先輩の状況が全くわからないこの週末、心配で心配でたまらなかった。 久々に見た先輩は、とても痩せ細ってやつれていた。 「先輩、ご飯食べてますか?細くなったでしょ…。」 「食べてる……」 嘘だ。 食べてる人はこんなに細くなりませんよ。 「先輩、眠れてますか?クマできてる…。」 「寝てるよ…、ちゃんと。」 それも嘘でしょ。 こんなにくっきりクマあるのに、隠せるわけないじゃないですか…。 「俺は眠れない。先輩が隣にいなくて、淋しくて眠れない。」 そう言うと、先輩は何かを言いかけて口を噤んだ。 「先輩が泣いてるのは、俺のせい…?」 「………違う…よ…っ…」 優しい嘘、つくんですね。 俺のせい、なんでしょ…? 「……離して、お願い。」 「…………」 「城崎…、離して。」 先輩からの拒絶。 離したくないけど、渋々先輩から手を離した。

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