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第50話
『ホテル、ありがとう。近々会って話がしたい。お互いが出張のこと落ち着いたら、会ってくれないか?』
マジで来た……。
やっと話を聞いてもらえるのか?
これ、夢…じゃないよな…?
会いたい。今すぐ会いたい。
出張とか待ってられない。
俺は先輩の連絡先を開いて、発信ボタンを押す。
『………もしもし?』
電話越しに、不安そうな先輩の声が聞こえた。
「先輩っ?連絡してよかったんですか?!」
『へっ…??』
「先輩、身体平気ですか?体調悪くないですか?お酒の飲み過ぎはダメですよ。俺、すげー心配したんですから…。それに、一人であんなとこ行っちゃダメです!今後二度と一人であの辺には踏み入れないと誓ってください!!」
言いたいことを早口で伝えた。
いっぱい言いたいことある。
連絡していいなら、いっぱいしたかった。
ずっと我慢してたのに…。
嬉しい。
先輩の声が聞けて、どうしようもなく嬉しい。
『ごめん。なんの話…?』
先輩は昨日のこと、覚えていないらしい。
そりゃあんなに酒臭くなるほど飲んだらな…。
朝、びっくりしただろうな。
「覚えてないくらい飲むとか本当に危ないですから!たまたますぐに知れたから助けに行けたけど、俺がいなかったら先輩、他の男に食われてたかも…」
一瞬想像して、ゾッとした。
先輩が俺以外の誰かに抱かれるなんて……
「うわ。考えたくもない。」
『お、落ち着けって…。』
「あー……もう……。」
ダメだ。
嬉しすぎて自分の言いたいことばっかり言って、先輩の話聞かなきゃ。
落ち着け。落ち着け、自分…。
深呼吸して、気分を落ち着かせる。
『城崎……?』
不安そうに俺を呼ぶ先輩。
あぁ、会いたい……。
「俺は出張落ち着いてからじゃなくて、今すぐ会いたいです。」
『っ……』
本音を言うと、先輩は言葉に詰まった。
うん、ダメだよな。
だからこそのあの言い方なんだろうし。
「でも我慢します。先輩の心の準備もいるだろうから。先輩が話せそうなときに教えてください。」
『う、うん…。』
かなり譲歩した。
今すぐホテルに会いに行きたいけど、それじゃ今までと変わらない。
やっと俺と話す気になってくれた先輩を怖がらせて、やっぱり話せませんなんてことになったら、それこそ死ぬまで後悔しそうだ。
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