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第53話
昼休みが終わり、午後の業務が始まる。
俺は明後日からの出張で使うプレゼン資料を見ながら悩んでいた。
インパクトを伝えるならA案、分かりやすさを重視したB案。
前出張に行った感触的に、大阪にはインパクト重視の方がいいか…?
一人で考えていても無駄だと思い、先輩に相談してみることにした。
「先輩、ちょっといいですか?」
「うわっ!え…、あ、どうした?」
先輩は露骨に動揺していた。
まだいきなり話しかけるのはダメなのか?
と思いつつ、これは仕事だから…と自分を正当化する。
「ここなんですけどね、プレゼンの資料、どっちにするか悩んでて…。」
資料を2枚先輩の前に並べた。
先輩は資料を手に取り、じーっと見比べていた。
「あー…、確かに悩むな。」
「うーん…。」
「うわぁっ?!」
先輩と同じ視線に立って見てみようとすると、無意識に先輩の真隣に顔を並べていた。
驚いて椅子ごとひっくり返りそうになった先輩を支える。
びっくりした。まさかこんなに驚かれると思わなかった。
「ごめんなさい…。近すぎましたか…?」
「わ、悪い…。」
「いや、今のは俺が…。」
謝ろうとすると、先輩の手がわずかに震えていることに気づいた。
先輩はすぐに、俺から手が見えないように隠した。
「こ、こっちの方がインパクトあって、いいんじゃないか…?」
「俺もどっちかと言うとそっちがいいかなって思ってました。ありがとうございます。」
俺は礼を言って資料を回収し、デスクに戻る。
怖がらせた。
あんなに先輩のペースに合わせるって誓ったのに…。
「ごめん…。」
「何がですか?」
先輩が急に謝るから、俺はとぼけた。
先輩だって、好きで怖がってるわけじゃない。
そんなこと分かってる。
先輩も察して、それ以上何も言わなかった。
「………ううん。それより、出張頑張れよ。」
「先輩も。ちゃんとご飯食べてくださいね。」
「いっぱいもらったから大丈夫。ありがと。」
先輩は俺が今朝渡した手料理の詰まった紙袋を見せてくる。
嬉しい。食べてくれるんだ。
「明日も何か作ってきます。何が食べたいですか?」
「いいよ。明後日から出張なんだから、しっかり休めよ。」
「俺、先輩のために何かしてる方が幸せなんです。だから、何が欲しいですか?」
「ハンバーグ…とか…?」
先輩は少し照れて、悩んだ後そう言った。
先輩、本当ハンバーグ好きだよな。
「ぷっ…(笑)言うと思った。」
「は、はぁっ?!じゃあ聞くなよ!」
「先輩の口から聞きたかったんです。じゃあ明日、腕によりをかけて作ってきますね。」
「………楽しみにしてる。」
小声で言った言葉も俺は聞き逃さなかった。
嬉しい。超嬉しい。
先輩とこうして普通に話せていることも、先輩が俺の料理を楽しみにしてくれていることも、照れた顔を見せてくれたことも、全てが嬉しくて幸せだった。
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