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第54話

翌日、俺は先輩のリクエスト通りにハンバーグを作って持っていった。 今日は明日からの出張のために、ちゅんちゅんと作戦会議が多かった。 先輩は来週からの出張のために、蛇目さんとの絡みが増えていてムカつく…。 何度か会話中に入って邪魔しようと試みたけど、真剣に仕事の話をしてたからさすがにやめた。 「先輩、まだ帰らないんですか?」 「あぁ。まだ仕事残ってて…。」 先輩は出張の業務を優先しすぎたのか、少しだけ仕事を残していたらしい。 パソコンを開いて業務を再開したのを見て、俺もデスクに着く。 「俺も残ります。」 「何言ってんだよ。城崎は明日から出張だし、もう帰りな。」 「この辺の資料捌きますね。」 「おい……。ったく……。」 先輩は俺に何言っても聞かないことを悟ったのか、無言で業務を再開した。 先輩の仕事を手伝うのは好きだ。 というか、先輩のために何かをすることが好き。 感謝されたいわけじゃなくて、先輩と関わりを一つでも多く増やしたいだけ。 付き合ってても、付き合ってなくてもそれは変わらない。 1時間ほど残業し、先輩もあらかた与えられた仕事は捌けたようだ。 帰宅準備をして、一緒にエレベーターに乗ってロビーへ降りる。 タイムカードを切って、会社を出た。 「じゃあ、少しの間会えませんけど…。」 「うん。頑張れよ。」 先輩のホテルは会社から近い。 だから駅へ向かう俺とはここでお別れだ。 寂しいな…。 三日間、加えて休日を挟むから五日間、先輩とは会えない。 俺は立ち止まって、先輩に尋ねる。 「先輩、電話してもいいですか?」 「あー……」 先輩は返事を迷っている様子だった。 ゆっくり話そうって前に言ってたのは、多分俺たちのこれからのこと。 だから、それを電話で聞くつもりはない。 「電話って言っても、前に言ってた話じゃなくて、世間話っていうか…」 「…………」 「先輩?」 「……………」 「先輩っ!」 「へっ…?!あ、何…?」 「話聞いてました?」 「ごめん…。ちょっと考え事してた…。」 先輩は心ここに在らずといった様子で、俺の声が耳に入っていなかったらしい。 俺は電話したい理由を伝えた。 結局は、俺が先輩の声を聞いて安心したいだけなんだよな。 先輩が電話を許可してくれて、俺はほっとした。 断られたらどうしようとか、結構考えたし。 「……格好良い。」 「え…?」 先輩が俺を見つめて、唐突にそう言った。 え?今格好良いって言った…? 聞き間違い……? と思ったけど、先輩は顔を真っ赤にして、あたふたし始めた。 「………っ!な、なんでもない!!じゃあ出張頑張って!おやすみ!!」 「あ、先輩っ!!」 先輩は脱兎の如く逃げ出した。 何あれ……、可愛すぎない……? 今すぐ追いかけて抱きしめたい気持ちをグッと堪え、俺は家へと戻り、明日に備えて眠りについた。

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