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第55話
朝6時。
せっかく先輩とデートする夢を見てたのに、アラームに起こされる。
先輩が話してくれるようになって、最近少しずつ眠れるようになってきた。
なのに、今日から五日間も先輩に会えないなんて辛すぎる…。
でも電話は許可もらったし…。うん。
夜に向けて頑張ろう。
必要最低限のものをキャリーケースに詰め、東京駅に向かう。
「あー!城崎さーん!おはようございまーす!」
「………はよ。」
「なんでそんな不機嫌なんすか…。今日は大阪ですよ!大阪!たこ焼きたこ焼き〜♪」
駅に着くと、待ち合わせ場所でちゅんちゅんが大きく手を振っていた。
正直、朝からこのテンションについていくのはキツい…。
「トーン下げて。うるさい…。」
「えぇっ?!いや、明るくいきましょうよ!俺初めての出張ですよ!!」
「あっそ。」
「もう!そんな元気なかったら、大阪の圧に負けますよ?!」
「まだ東京だろ…。」
「家を出たら遠足はスタートです!!」
「遠足じゃねぇし…。」
いつも以上にウザさ増し増しのちゅんちゅんは、真っ先に駅弁屋に向かい、10分間駅弁に悩んだ。
相手が先輩だったら、悩んでるのを俺が買ってシェアするけど。
ちゅんちゅんにそんなことしてあげるほど、俺は優しくない。
そして乗車時刻、新幹線に乗り、ちゅんちゅんは我が物顔で窓側の席に座った。
「俺、窓側がいいんだけど。」
「えー?城崎さんって富士山見ます?」
「見ねぇけど。」
「じゃあ俺の席っすね!普段新幹線なんて乗れないんすよ、俺。ね?窓側譲ってください!」
「勝手にしろ……」
こっちは海側の席だから富士山は見えねぇけど。
とは、教えてやらねぇ。
ご機嫌に駅弁を開けるちゅんちゅんに尋ねる。
「昼は向こうで先方と一緒に予定してるんだけど、なんで今食ってんの。」
「駅弁っていいじゃないですか!夢だったんですよね!」
「ちっせー夢だな。」
「あ!見てください!彼女からメール来ました!」
ちゅんちゅんはとびっきりの笑顔で、俺に彼女からのメールを見せつけてくる。
『コタロー頑張ってね♡』
そういえばこいつの名前、そんなだったっけ。
てか、いい度胸してんな。
俺だって先輩からの応援メール欲しいのに…!
「し…、城崎さん、さらに機嫌悪くなってません…?」
「別に。」
無視を決め込んでいると、富士が見えるという旨の車内アナウンスが鳴る。
今日の車掌はアナウンスしてくれる人だったらしい。
少し興味本位でちゅんちゅんの方を見ると、窓にベタッとへばりついていた。
「…………あ、富士山!富士山………?」
「………ぷっ(笑)」
「な、なんですか!?ていうか、富士山どこ!?」
「そっちは海だから富士山は見えねぇよ。見りゃわかるだろ。」
「えぇっ?!!」
あまりにもがっかりした顔をするちゅんちゅんに、俺だけじゃなく、周りの人もくすくす笑っていた。
ていうか、関東の人間なんだから、富士山くらい天気良かったら見られるだろうに。
こいつ絶対、周りの人に高校生とか大学生と勘違いされてそう。
がっかりよりも恥ずかしそうなちゅんちゅんを横目に、俺はタブレットで小説を読んで、大阪に着くまでの時間を潰した。
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