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第56話
「もぉ〜!!城崎さんのせいで恥かいた!!」
「俺のせいではないだろ。」
新幹線から降りて、取引先に向かう。
ちゅんちゅんはぷんすか怒っていた。
決して可愛くはない。
「帰りは富士山側の席だけど。」
「本当ですかっ?!」
「まぁ、帰る頃には暗くて見えないだろうけどな。」
「なっ…?!揶揄いましたね?!」
「あーおもしろ。」
帰りは俺が窓際座るつもりだし。
そんなに富士山見たけりゃ、少し車出せばいつでも見られるだろうに、そこまで頭は回らないらしい。
タクシーを拾って、よく喋る運転手の話に相槌を打ち、取引先に到着する。
「はじめまして。Sコーポレーションの城崎です。この度は……」
形式的な挨拶を済ませ、プレゼンを行う。
反応はなかなか良く、今回もスムーズに話は進みそうだ。
昼時になったので、一旦会議を中断して昼食に出ることになった。
ちゅんちゅんは唯一の取り柄である馬鹿正直さが先方に受けたらしく、えらく気に入られている。
楽しそうに話していたので、俺は少し離れて部長に連絡した。
『おお、城崎か。調子はどうだ?』
「このまま問題なくいけば、契約できると思います。」
『さすがだな。今回もよろしく頼むぞ。』
「はい。………あの、部長…」
『ん?どうした?』
先輩はどうしてるだろう…。
部長にこんなこと聞いてもいいものだろうか…。
連絡してもいいと言われたものの、やはり躊躇してしまう。
「本社の様子はいかがですか?」
『あぁ。おまえらがいないから、みんな静かにやってるよ。雀田がムードメーカーなのがよくわかるな。はっはっは!』
先輩個人のことを部長に聞くのは、何か勘繰られたら不味いのでやめた。
静か…ってだけじゃ情報量が少ないな。
やっぱり直接先輩に連絡するしかないか…。
『そういえば、雀田の初出張はどうだ?』
「相変わらずうるさいですよ。先方には気に入られてますけど。」
『そりゃあよかった。あいつは抜けているところが多いから、これでも心配してたんだぞ。城崎に任せてよかった。』
任せる相手間違ってないか?
俺まだ三年目なんだけど。
俺の初出張は、去年先輩と行った名古屋だったな…。
「普通俺みたいな若輩者に任せないですよ。望月さんとか柳津さんとかの方がよかったんじゃないですか?」
『城崎は十分に優秀だろうが。それに、歳が近い方が頼りやすいだろうかと思ってな。』
「そうですか。」
俺は先輩とでよかった。
また先輩と一緒に出張行きたいな…。
旅行気分ですげー楽しいし、それに先輩の前で格好つけたくて俺も頑張るから、会社としても利益あると思うんだけど。
「城崎さーん!お昼行きますよ〜!」
「あー、わかった。…すみません、部長。先方と昼食に行くので切りますね。」
『おう。くれぐれも粗相のないようにな。』
部長との通話を切って、ちゅんちゅんと先方のもとへ戻った。
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