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第64話
「出張の準備できましたか?」
『え?あぁ、まぁある程度…。』
話題を変えて振ってみる。
話が途切れて、電話まで終わっちゃうのが嫌だったから。
「本当は行ってほしくないんですよ…?蛇目さんとなんて、聞いてなかったし……。」
『あぁ、ごめん……。』
思い出しても腹が立つ、あの蛇目さんの勝ち誇ったような笑み。
一回一緒に出張行ったところで、先輩が靡くわけないし…。
ない……よね…?
いや、ないない。絶対ない。
『城崎……』
「……へっ?!なんですか?」
『……やっぱ何もない。』
悪い想像をしていたら、先輩から名前を呼ばれたことに一瞬気づけなかった。
俺のバカ…!!
先輩言うのやめちゃったじゃん。
「え〜?!気になるじゃないですか!何?教えて?」
少し冗談っぽく尋ねる。
これで話してくれると思ってるわけではないけど…。
『…………来週の土曜日、空けててほしい…。』
?!?!
土曜日?!
先輩が帰ってきてすぐってこと?!
思っていたよりも数日早い約束に胸が躍る。
「もちろんです!!一日中暇ですよ!」
『また連絡する。』
「待ってます!」
『ん。』
「ねぇ、先輩。もう少しだけ話したい。付き合ってくれますか?」
『あぁ。』
多分それからの俺は、先輩が聞いてても分かるくらいご機嫌に話してたと思う。
だって嬉しい。
やっと話せる。謝ることができる。
誤解を解いて、また先輩が俺と向き合ってくれますように。
「先輩、明後日やっと会えるの、嬉しいです。」
『うん。』
「先輩の大好きなもの、たくさん作って持っていきますね。」
『出張までに食べ切れる量な。』
「いっぱい作っちゃうかも。先輩、ちゃんと食べてね?」
『食える範囲でな。』
数分話して、先輩から通話を切った。
俺は早速メモに先輩の好物を列挙していく。
明日は買い物と作り置きで時間潰せそうだなと、頭の中で予定を組み立ててから、気持ちよく眠りについた。
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