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第67話

とうとう6月8日。 先輩は今日から蛇目さんと出張に行ってしまう…。 俺は東京駅に向かいたい気持ちを抑えて、何とか会社に来た。 「城崎……、顔やばいけど。」 「言わないでください……。」 多分俺の顔は誰が見てもわかるくらい不機嫌。 柳津さんは俺を見て苦笑している。 「前みたいに失敗しまくって迷惑かけんなよ?」 「するかもしれませんね。先輩いないし。」 「はぁ…。また綾人に城崎が使いもんにならなかったってチクるぞ?」 「また?!またってなんですか!前言ったんですか?!」 「言ったよ。お前マジで仕事できなかったもん。」 酷い……。 先輩に俺のダメなとこバラされたなんて……。 「柳津さんなんて嫌いです…。」 「おいおい…。それが何度も協力してやった先輩に言う言葉か?」 「先輩、なんて言ってましたか…?」 「調子悪いだけなんじゃない?って。お前本当、綾人の前ではデキる男って感じだもんな。」 「できますからね。」 「調子取り戻したみたいでよかった。」 よかった…。 幻滅されてたらどうしようかと…。 つーか、先輩と蛇目さんのことが気になりすぎて、仕事に全く身が入らない。 「城崎、働け。」 「無理…。気になる……。」 「メッセージ送れば?」 「返事くると思いますか…?」 「まぁ、余裕あれば?」 そこは嘘でも、くると思うって言ってほしかった。 この人本当正直だよな。 あー……、ムカつく。 せめて先輩の出張相手が蛇目さんじゃなくて柳津さんだったらな…。 「先輩、調子はどうですか……、と。」 「結局送るんだな。」 「当たり前でしょ。まぁ正直、先輩のことだから仕事の面は全く心配してないんですけどね…。はぁ。蛇目さんに手出されてないといいんですけど。」 「さすがに出さねえだろ。上司だぞ?」 「俺という前例をお忘れですか?」 「…………」 俺だって出したよ。 上司とか部下とか関係ない。 先輩のこと好きだったんだもん。可愛いんだもん。 二人きりとか……、手の一つや二つ出すだろ。 「あーーーー!!心配!無理!!」 「いや、マジで仕事してくれ。」 「無理っ!!!」 今すぐ飛行機で福岡まで行ってやろうかな。 先輩のことを想像すればするほど、背後から蛇目さんの魔の手が伸びてくる。 「俺も定期的に様子聞くからさ。とりあえず集中してくんね?つーか、今だいぶ関係良くなってきてんだろ?」 「そうですけど……。」 「話せるようになったなら、すげー進歩じゃん。」 「…………足りないんです。」 「我儘だなぁ。」 「彼氏ですからね……。」 柳津さんは苦笑して、俺に珈琲を淹れて仕事へ戻ってしまった。

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