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第68話

仕事は結局全然手に付かず、その後も何度か先輩にメッセージを送り、定時になった。 仕事は終わっていなかったけど、使い物にならないから後日巻き返せということで、柳津さんに帰された。 不貞腐れてAquaにきたはいいものの……。 「麗子さん、夏月くんどうしたの?」 「大好きな彼に出て行かれちゃって、傷心してるのよ。」 「え?望月さんに?」 煙草吸いながら度数高めの酒を煽っていたら、隣に誰かが座った。 拓磨さんだ。 美容室では会うけど、Aquaで会うのは久しぶり。 拓磨さんには、このことまだ話してない。 「喧嘩?」 「喧嘩……ではないです。」 「聞いてもいい?」 「はい…。どうぞ食事しながらで。」 「ありがとう。」 拓磨さんは困った顔をして、とりあえず麗子ママにお酒とおつまみをもらって食事を始めた。 拓磨さんに5月からの俺たちのことを掻い摘んで話す。 「なるほどね。でも今はいい方向に向かってるんだ?」 「まぁ、はい…。先輩の出張終わったら、会うんです。土曜日に。」 「へぇ。いいじゃん。やっと夏月くんが言いたいこと言えるんじゃない?誤解が解けたらきっと解決するよ。」 「そうだといいんですけど…。」 別れ話だったらどうする? さすがにそれはないと思いたいけど…。 いい話だったらいいのにな…。 「じゃあ何で今はご機嫌斜めなの?」 「………先輩のこと狙ってる人と出張行ってるんです。」 「ふふっ。」 「何がおかしいんですか…。」 拓磨さんが楽しそうに笑うから、俺はムッとして拓磨さんを睨む。 「ごめんごめん。夏月くんでも焦ることあるんだなって。なんかいつも余裕そうなイメージあったから。」 「それは俺が先輩と出会う前の話でしょ。」 「やっぱりファーストインプレッションってなかなか抜けないものだよ?でもそっか。心配なんだ、望月さんのこと。」 「先輩がその人に靡くことはないって信じてますけど、それより向こうから先輩に何かするんじゃないかって、気が気じゃなくて…。」 「うん。まぁそうだよね。でも今は待つしかできないじゃん?」 「はい…。」 「じゃあまずはその手に持ってるもの、仕舞おうか。」 「……?」 俺の指先には煙草。 さっき話の途中で新しいのを出したから、まだしばらく吸えそうだけど。 「何でですか?」 「夏月くん、煙草は望月さんが嫌いだからやめたって言ってなかった?」 「そうですけど…。」 「土曜日会うんでしょ?気づくか気づかないかは置いといて、自分が望月さんの立場になったときどう思う?自分のためにやめてくれてたものを、また始めてたら不安にならない?」 「あっ……」 そうだ。たしかに。 先輩が煙草嫌いだからやめてるの、先輩も知ってるし。 もし俺が先輩の立場だったら、心変わりしたのかとか、浮気したのかとか、絶対に疑ってしまう。 「やめる。」 「よろしい。」 持ってるカートンを全て拓磨さんに渡し、煙草と訣別する。 代わりに飴玉をもらい、それを口に含んだ。

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