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第70話

先輩に電話をかけようとスマホを取ると、まるで運命かのように先輩から電話がかかってくる。 俺はすぐに応答ボタンを押した。 『もしもし。今大丈夫だった?』 「せんぱぁい…。電話嬉しい…。」 『城崎?酔ってるのか?』 「声、聞きたかった。」 電話越しに、大好きな先輩の声が聞こえる。 ソファに寝転んで、目を閉じて先輩の声を感じる。 『声なんて、昨日聞いたろ。』 「今日は聞いてない〜…」 『そりゃ、俺今福岡だし。城崎は?一人で飲んでたのか?』 「んーん。拓磨さんと〜…」 『ふぅん…』 あ。先輩の声色が変わった。 少し拗ねたような声。 「先輩、嫉妬してくれてる…?」 『してないし。新田さんだろ?俺が涼真と飲むようなもんだろ…。』 「嫉妬してくれていいんですよ?俺、先輩のものだから。独占欲出されたら嬉しい。」 『っ…!してない!おやすみ!!』 「あっ……」 切られた……。 でも俺も飲みすぎて頭回ってないから、ちょうどよかったかもしれない。 先輩が拓磨さんと飲んだだけで、少し嫉妬してくれてそうだった。 嬉しい。 これからは人と飲まないようにしようっと。 飲むときは、先輩も連れて行く。 あー、でも先輩のことを相談したいときはどうしたらいいんだ…? ちょっと離れた席で見守っててもらう…とか? てか、今こんなこと考えても意味ないか。 「あー……、早く土曜日にならないかな……。」 今日はずっとこのことで頭がいっぱいだ。 やっと先輩が話を聞いてくれるんだもん。 元通りに戻れるかもしれない。 先輩に溢れんばかりの愛を伝えて、俺の愛に溺れて欲しい。 先輩のことになると自制心がなくなるのが、俺の悪いところだから気をつけないと。 先輩の声を聞いたおかげでよく眠れ、次の日は仕事も多少は捗った。 ただ、その日は先輩からの連絡はなくて、俺からかけても応答はなかった。 いつもなら出てくれるのに。 まさか蛇目さんに何かされたのか? 変に勘ぐってしまったけど、もしかしたら、ただ単に疲れて寝てしまっただけかもしれない。 前日とは一転、その日は心配でなかなか寝付けなかった。 翌朝、先輩からは『悪い。疲れて寝てた。』と、一言だけメッセージが送られてきていた。

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