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第74話
先輩はおずおずと俺の背中に手を回した。
苦しいほど愛おしくて、俺はギュッと強く先輩を抱きしめる。
「城崎…、ごめん。また一緒に暮らしたい…。」
小さく呟かれた先輩の言葉に、感極まって息をするのを忘れそうになった。
嬉しい。
もう絶対に離さない。
「城崎は……、もう俺のこと好きじゃないかもしれないけど…っ、ごめんな…」
「何言ってるんですか…。」
先輩の言葉に、俺は少し腹が立った。
何をどう捉えたら、俺が先輩のこと好きじゃないように見えるんだよ。
両手で先輩の頬を包み、鼻先が当たるくらいまで顔を近付ける。
「好きに決まってるでしょ…。好きじゃなかったら手料理なんて渡さないし、あんなしつこく電話なんてかけないです。」
「そ……なの…?」
「地球が何周回っても、俺が先輩のこと好きじゃなくなる日なんて一生訪れないです。」
離すもんかと腕の中に先輩を閉じ込める。
さっきまで強張っていた先輩の体から、少し力が抜けるのがわかった。
愛しい。
大好きだ、この人が。
世界中の何よりも、世界中の誰よりも。
代わりになる人なんてどこにもいない。
「好き…。先輩、好き。愛してます…。」
「……うん。」
「ずっと先輩に触れたかった……。」
「……うん。」
「ずっと待ってました…。寂しかった……。」
思いの丈を先輩にぶつける。
あぁ、格好悪い。
涙は見られていないと思うけど、声できっとバレている。
先輩は手を伸ばして、よしよしと子供を慰めるみたいに俺の髪を撫でた。
このまま甘えてしまいたい。
俺の頭を撫でる先輩の手首を掴んで、俺の頬に先輩の手を当てる。
じっと見つめると、先輩は照れ臭そうに頬を桃色に染めた。
「な…に……?」
「甘やかしてほしい。今日は甘えさせて…?」
「い…いけど…。」
年下の特権。
先輩は断れないって、なんとなくわかってた。
けど、まずは話しておかないといけないことがある。
話さないと、解決しないから。
なくなく先輩の手を離した。
その前に腹を満たそう。
話は長くなるかもしれないから。
リビングに移動して、先輩を椅子に座らせた。
準備しておいた材料で、ささっと昼ごはんを作る。
先輩は無言で待ってくれていた。
「クリームボロネーゼです。どうぞ。」
「美味そう。」
「お口に合うといいですけど。」
先輩に振る舞うのは初めてのパスタだから、口に合うかどうか不安だ。
でも、先輩の表情を見たら、美味しいと思ってくれてるんだと分かって安心した。
「先輩、体重増えてきた?」
「うん。おかげさまで。」
げっそりした先輩を見たとき、一時はどうなることかと心配した。
俺が手料理を作るようになってから、少しずつ肉つきを取り戻し、体型はとりあえず戻りつつある。
先輩が「ご馳走様でした。」と手を合わせたのを見て、俺は先輩をソファの方へ誘導した。
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