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第76話

何か引っかかることがあるなら教えてほしい。 けど、これ以上先輩は何も言ってくれなさそうだ。 少し話題を変えて、さっき気になったことを質問してみる。 「ねぇ、先輩。どうして俺がもう先輩のこと好きじゃないかもって思ったの?」 「だって……、ホテルに俺を運んでくれたとき、何もしなかっただろ…?」 「え……………。あー…………。」 そういうことか。 てか、あのとき先輩が寝てるのをいいことに、キスしまくったけど…。 なんなら舌ねじ込んで、思いっきり堪能しちゃったし…。 隠し事してることに少しの罪悪感が芽生え、俺は視線を逸らした。 ていうか、この発言どういうこと? 触ってもよかったってこと…? 抱いてもいいなら抱きたいに決まってるじゃん。 「だって先輩、俺と話したり、触れられただけで過呼吸起こしたりしてたのに、ダメでしょ……。」 「え…?」 先輩はキョトンとした顔になった。 まさか俺が自制もできない脳内性欲だらけの猿だと思ってる…? いや、まさかね…。 「過呼吸って苦しいでしょ?先輩が苦しい思いするのは嫌だ。」 「城崎……」 「あと拒否られたら、結構キツイし…。半分自分守るためってのもありました。」 先輩に突き飛ばされたとき、人生終わった…と思うレベルでショックだった。 あの経験はできればもう味わいたくない…。 「……ごめん。」 「もう大丈夫…?」 「えっと…、あー、そのことなんだけど…。」 触れたい。 そのつもりで聞いたんだけど、先輩は言いづらそうに俺に伝えた。 「ここに戻る条件がある。」 条件…。 どうやら一筋縄では戻ってきてくれないらしい。 まぁ条件がなんであろうと、先輩が帰ってきてくれるなら飲むんだけど。 「しばらくは必要以上に触れないでほしい。」 「え…。」 「城崎に抱きしめられて安心した。でも、いきなり前みたいなスキンシップの多さは、多分俺の身体がついていかない…。」 さっきからめちゃくちゃ触れてるんだけど。 前みたいなスキンシップの多さって、多分ただいまとかおかえりのキスとか、すぐに先輩を抱きしめて敏感なとこ触っちゃうとか、そういうことだと思う。 必要以上に触らないって……。キツ。 「少しずつ慣らしていきたい。協力してほしい。」 「…………わかりました。」 キスとかセックスはめちゃくちゃ頑張って我慢するけど、ハグもダメ? 必要以上にって、俺はどれもこれも必要なんだけど。 うぅ……。 「あと、家に帰るときは、今日みたいに一緒にいてほしい…。」 先輩はもう一つ条件を出してきた。 それは飲む。もちろん飲む。 少しでも先輩と居れる時間が増えるなら、大歓迎だ。 「もちろんです。仕事は一緒に帰りましょう?先輩が出かけるときは、駅まで送り迎えもします。約束する。」 「うん…。ごめんな、迷惑かけて。」 「迷惑じゃないです。先輩と一緒に居れる時間が増えるなら、俺も嬉しい。」 抱きしめたい…と思って手を伸ばして、その手を諦める。 今抱きしめるのは"必要以上"に含まれてしまうのか…? 「ちなみに…、甘えるのもまた今度ですか…?」 「それは…、後でって約束したから、いいよ…。」 いいのっ?! 俺はすかさずソファに座る先輩の太腿に頭を乗せ、満足いくまで頭を撫でてもらった。

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