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第80話
冷たくて硬い廊下の床で、浅眠を繰り返していると、いきなりドアが開いて、俺はそのまま後頭部を床に打ちつけた。
「痛っ…」
「城崎?」
「先輩……、おはようございます。」
「なんで…?」
「いや、なんでって…」
先輩がベッドも何もない部屋に閉じこもるから…。
できるだけ先輩の近くにいたいし、不安だったし…。
「ちゃんとベッドで寝ろよ。風邪引くだろ。」
先輩は怒り顔でそう言った。
風邪?
そんなの、今は免疫力明らかに落ちてる先輩の方が風邪引くでしょ。
「先輩こそ。床で寝たんでしょ?」
「「…………」」
これ、多分埒が明かないやつだ。
先輩が部屋で寝るって言うなら仕方ない…。
「とりあえず、今日はマットレス買いに行きましょう。」
「うん。」
「本当はベッドで一緒に寝たいんですけど。」
若干嫌味っぽく聞こえてしまいそうな言い方でそう言うと、先輩は黙ってしまった。
だって、やっと帰ってきてくれたのに、すごく距離を感じる。
このまま、また出て行ってしまうんじゃないかって…。
罰が悪そうに俯く先輩に、言い過ぎたかと後悔する。
場の空気を変えるために、朝食を作りにリビングへ行く。
トーストを焼いて、バターとジャムをたっぷり塗って、それから先輩の好きな味で珈琲を作って…。
「先輩、朝ごはんできたよ。」
「ありがと…。」
さっきの今だから、先輩も少し反省した様子で朝ごはんを食べる。
しょんぼりしてる先輩も可愛いな…。
「俺も買おうかな。」
「何を?」
「マットレス。」
「なんで?勿体ないだろ。城崎はベッドで寝たらいいじゃんか。」
「それ、先輩が言います?」
「うっ……」
俺は新しいマットレス別にいらないけど。
何となくそう口にしたら、先輩が怒るから、反論したら押し黙った。
強いて言うなら、先輩と寝るダブルベッドのマットレスを新調してもいいかもな。
高いから、ボーナス入ってから。
で、この人は俺に買うなと言っておいて、自分は買うつもりなのか?
「一番安いの買うから…。そんな怒んないでよ…。」
小さくそう言った先輩の言葉を、俺は聞き逃さなかった。
「は?先輩を安物のマットレスになんか寝かせるわけないでしょ。」
「じゃあどうしたら城崎は納得してくれるんだよ?」
「一緒に寝たら解決するんですけど。」
「だから、それは無理なんだって!」
最初から無理って言わないで。
一度寝てみてから決めてほしい。
でも今の先輩にそんな無理強いすることもできなくて、気持ちが焦った。
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