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第81話
機嫌を損ねて俺から背を向ける先輩を抱きしめた。
「だ…っ?!いきなりそういうのはやめてって言…」
「ごめんなさい。」
「……へ?」
「俺、焦ってる。先輩が安心できるまで待つつもりだったのに…。ごめんなさい。嫌いにならないで…。」
謝ることしかできない自分が嫌になる。
先輩のことが好きで好きでたまらないのに、どうしても気が焦ってしまう。
ぎゅっと抱きしめると、先輩は黙り込んだ。
抱きしめ返されないのが、俺の不安を大きくする。
やめて。
もしかして、また俺から離れようなんて思ってないですよね…?
「先輩…、今なんか悪いこと考えてませんか?」
「え。」
「お願いだから、俺から離れるなんてことだけはもうやめてください。俺、本当に先輩がいないと生きていけない。」
「でも……」
やっぱり。
最近の先輩は俺から離れることで解決しようとする。
そんなの嫌なのに。
俺には先輩しかいないのに。
先輩を俺の方に向け、まっすぐ見つめる。
「考えられないんです。先輩がいない未来なんて。」
俺の人生で一番なくてはならない人。
俺が人間らしくあるために、必要な存在。
それは先輩ただ一人だけなんです。
「近…ぃ…」
「あ…。ごめんなさい…!」
先輩は顔を逸らしてそう言った。
無意識に鼻先が当たるくらいの距離まで近づいていて、先輩の必要以上に近寄るなという言葉を思い出す。
どうして?
こんなにも好きなのに…。
「好きです…。愛してます。生涯をかけて大切にするから、俺のそばにいてください…。」
言葉と行動、俺の全てで先輩に俺の気持ちを伝える。
愛してる、誰よりも。
なのに俺の声は自信のなさの現れかのように、小さくて情けなかった。
でも、先輩は俺の手を両手で握ってくれた。
「先輩……」
先輩の指に触れ、恋人繋ぎに変える。
先輩はビクッと震えたけど、俺はギュッと繋ぐ手に力をこめて、先輩を見つめる。
「…っ」
「抱きしめさせて…?」
お願いすると、先輩は本当に僅かに首を縦に動かした。
可愛い。愛してる。
先輩を守るように優しく、でも俺の気持ちが伝わるように力強く、先輩を抱きしめた。
身体が硬い。
心臓もバクバクしてて、結構無理させてるのかと不安が募った。
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