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第82話

先輩は俺の胸の中で、深呼吸した。 緊張をほぐすためなのかと思ってそっと頭を撫でると、先輩は固まった。 あれ…?触っちゃダメだったか…? 様子を窺うと、先輩はボソッと小さい声で呟いた。 「………煙草の匂いする。」 「えっ?!嘘??」 俺は慌てて先輩から体を離し、自身の体を嗅いだ。 この上着、たしかにAquaに着て行った。 しかも煙草も吸った。 でも、ちゃんと消臭剤かけたのに…! 「……吸ったのか?」 先輩にそう聞かれ、ドキッとする。 「えー…、あー…、………はい。」 バレてるものを嘘はつけないから認める。 むしろ他人の煙草の匂いが移ったって嘘言った方が不安にさせそうだし…。 でも先輩が嫌いだから吸わないようにしてるって言ったくせに、離れてる間に吸ってるって、先輩の立場からすれば裏切りというか…。 信用は失う…よな……。 拓磨さんの言う通りになった。 本当俺の馬鹿……。 先輩の無言が答えなんだと、自分の行いを深く反省していると、先輩は小さい声で俺に尋ねた。 「……俺のせいだよな。」 え……? 「いやっ…、違いますよっ?!先輩のせいじゃなくて、俺が弱かっただけっていうか…!」 「寂しい思いさせてごめん…。」 「いや…、ほんとに先輩のせいじゃなくて…」 何で先輩が謝る展開になってるんだ?? どう考えても俺が悪いのに。 寂しい思いはしたけど、それは俺が原因で、しかも先輩にだって寂しい思いさせちゃったし…。 あたふたしていると、先輩はじっと俺を見た。 「でも、もう吸わないで。」 それは、これからも俺と一緒にいてくれるってこと…? さすがに自分勝手すぎる解釈かな? 先輩は悲しそうな顔をしているのに、俺は先輩が俺にお願いをしてくれたことがひどく嬉しかった。 「吸わない。約束する。」 「本当…?」 「はい。誓います。」 もう二度と吸わない。 透さんに渡されても断る。 どんなにイライラしてても、不安になっても我慢する。 そんなことで先輩に嫌われたくない。 煙草、そんなに吸ってなくてよかった。 透さんほどのヘビースモーカーだったら、正直辞められないと思うけど…。 「ごめんね、先輩。もう絶対煙草なんて吸わない。不快な気持ちにさせないようにします。」 「うん…」 先輩は何か引っかかることがあるのか、少しだけ眉を下げていた。

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