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第83話

昼ごはんを食べたあと、マットレスを買いにショッピングモールへ行った。 「これでいい。」 「ダメ。こんな安物に俺の大事な先輩を寝かせるなんてありえないです。」 「いいってば。」 「俺が出しますから、それは元の場所に置いてきてください!」 先輩は一番安いペラペラのマットレスを買おうとするから、全力でそれを阻止した。 最近よくCMなどでも見かける、話題のマットレスを手に取る。 先輩には良質な睡眠をとってほしい。 今日中に届くように手配してもらい、会計を済ませて寝具コーナーを後にする。 「城崎、俺出すよ…?」 「いいんです。俺のわがままだから。」 「ていうか、こんないいマットレス買ったら、戻れなくなっちゃうけど…。」 「はっ?!」 先輩の言葉に、俺は言葉を失った。 たしかに…。 俺だって、気持ちいいベッドがあるならそっちで寝たい。 そりゃ、床だけど先輩と寝られるか、最高のマットレスで一人で寝るかだった、先輩をとるけど……。 口を開けて固まっていると、先輩はぷはっと吹き出すように笑った。 「嘘だよ。」 「本当…?一緒に寝てくれますか…?」 嘘ってことは一緒に寝てくれるってことだよな…? 探るように尋ねると、先輩は困ったように笑った。 「すぐには無理だけど…。」 「早く先輩を抱きしめて寝たいな…。」 「………。」 「ごめんなさい。今は無理って言ってるのに、こんなこと言ったら先輩困っちゃいますよね…。」 うん…、わかってたことだ。 困ってる先輩をさらに困らせるようなこと言って、俺ってばダメだよな…。 お互い無言の、この変な空気が辛くて、俺は話を元に戻す。 「先輩、マットレスの感想教えてくださいね?気持ちよかったら、二人のベッドもこのマットレスに買い替えましょうよ。」 「ダブルベッド用って高いんじゃないの?」 「俺が出します。」 「気持ちは嬉しいけど、こういうときのために共有口座作ったんじゃないのか?」 「でも俺のわがままだし…。」 「いいよ。俺も寝るベッドなんだから。」 先輩…。 う〜……。好きが溢れ出しそう…。 今は無理でも、今後俺と一緒に寝る想定をしてくれてるってことだよな? 先輩の見てる未来に俺がいるのが、泣きそうなくらい嬉しい。 ジーン…と感動を噛み締めていると、先輩の指先が俺の指に触れた。 反射的に手元を見ると、先輩は俺を見て顔を赤くする。 え…?なにこれ……? 可愛いんですけど…!! これって、もしかして、もしかしなくても……。 「先輩、手繋いでもいいですか?」 先輩が手を繋ぎたいと思ってくれている。 確信めいてそう聞くと、先輩は小さく頷いた。 幸せだ。 可愛すぎるだろ、俺の彼氏…。

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