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第91話
会議室から出ると、柳津さんとお昼に行ったはずの先輩がいた。
キョロキョロと誰かを探している様子だったが、俺を視界に入れるなり、パッと表情が明るくなった。
駆け寄ってきたと思えば突然足を止めるから、俺から近づく。
「先輩?柳津さんと食べてたんじゃなかったの?」
「そ…うなんだけど…。やっぱり城崎と食べたいなって……。」
なにそれ。可愛すぎる…。
不安そうにそう言った先輩を連れて、会議室に入る。
先輩は俺の作った弁当を食べながら、ふわりと笑う。
「美味しい。」
「どうも。」
これこれ。
好きな人が俺の料理を食べて幸せそうに笑う。
この瞬間が本当に幸せだ。
先輩はそのあと黙々と弁当を食べすすめ、ほぼ言葉を交わすことなく休憩時間が終わってしまった。
先輩が席に着くと、部長が先輩に近づく。
多分さっきの話だと思うけど。
「望月、昨日は悪かった!」
「へ……?」
「前も、その前も…。望月は仕事が丁寧で早くて、それに頼みやすいから、ついつい頼んでしまった。お前がそんな遅くまで残ってるなんて知らずに…。すまなかった。」
よかった。
きっとこれで、先輩だけが仕事を押し付けられることはなくなるだろう。
「もう望月さんにばっかり仕事押し付けないでくださいね。」
「あぁ。城崎もありがとな。」
部長はデスクに戻って行った。
先輩は……、驚いた顔で俺を見ている。
クソ可愛いな…。
「城崎…、ありがとう…。」
「先輩も。簡単に引き受けちゃダメですよ?」
「うん。気をつける。」
気をつけるって言ってるけど、先輩は優しいから結局頼まれたら断れなさそう。
だからこそ俺が言ったんだけどな。
というか、先輩からの視線が……。
顔赤くして見つめられたら、普通に照れる。
「惚れちゃいました?」
「っ?!///」
揶揄うと先輩はさらに赤くなった。
この反応、先輩ってまだ俺のことが好きってことだよな?
あのことがあってから言葉では聞けてないけど……。
先輩は顔に出やすいから、こうしてつい揶揄いたくなってしまう。
「冗談ですよ。からかってすみません。」
チュッと耳元でリップ音を鳴らすと、先輩はブワッと湯気が立ちそうなくらい赤くなって固まった。
俺がデスクに戻ったあと、柳津さんと蛇目さんに絡まれていた。
柳津さんはともかく、蛇目さんは今一番関わってほしくない人なんだけど……。
仕方ないか。仕事だし…。
顔が赤いことを揶揄われたのか、先輩は二人にプンスカ怒っていた。
そして俺を睨みつける。
やっぱり揶揄われたんだな。
ニコリと微笑むと、先輩は顔を赤くしたままそっぽを向いた。
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