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第100話

「何か食べれますか?ゼリーとかもダメそう?」 体調が悪くても、せめて何か胃に入れてほしい。 背中を摩ってそう聞くと、先輩は青白い顔をして呟いた。 「焼き鳥…」 胸がキュゥっと切なくなった。 きっと無理して食べようとしてくれてるんだと。 こんなにも気分が悪そうで、現に嘔吐までしてるのに。 「無理して食べなくていいですよ。」 「でもせっかく作ってくれたのに…」 先輩は優しすぎる。 こんなの、いつだって作ってあげられる。 自分の体調を何よりも優先してほしいのに、この人はいつも人のことばかり…。 「いつでも作ってあげます。今日は食べやすいものだけ。ね?」 「ごめんな…。」 「謝らないで?体調悪いのは仕方ないですよ。元気な時にまた一緒に食べましょうよ。」 説得するようにそう伝えると、先輩は申し訳なさそうに頷いた。 どうにかして笑わせてあげたいと、職場のあいつを思い出す。 「仕方ないから、今日の残りは職場の鳥にあげるかぁ。」 「……ふふっ(笑)鳥って、ちゅんちゅん?」 「正解です。よかった、先輩笑ってくれて。」 しんどそうだけど、少しだけでも笑顔が見れてホッとした。 「ゼリーなら食べられる?」 「……多分。」 「よかった。前に風邪引いた時の、まだ残ってたんです。みかんがいい?ぶどうがいい?」 「みかん…」 「はい。無理だったら残していいですからね。」 「ありがと。」 先輩はちまちまとゼリーを食べた。 焼き鳥どうすっかな…。 この様子で、明日焼き鳥食べれるまで元気になるとはあまり思えないし…。 さっき言った通り、ちゅんちゅんや柳津さんにお裾分けするか。 「先輩、お風呂入ってきてくださいね。」 「城崎は…?俺、あとでもいいよ。」 「焼き鳥焼いてタッパに詰めるから。時間あるし、お先にどうぞ。」 「わかった。ありがとう。」 先輩が浴室に向かったのを見て、はぁ…とため息を吐く。 原因がわからない。 家に帰ってから…? 突然気分が悪くなったのか…? 先輩が上がってくる頃に合わせて珈琲を淹れ、ダイニングで待っていると、先輩は髪をタオルで乾かしながらリビングに来た。 珈琲を促すと、先輩は俺の向かい側に座った。 そっと手に触れると、先輩はビクンッと体を震わせて、息を止めた。 「先輩……」 「だ、大丈夫…!触っていいから…」 「ううん…。無理してるでしょ、先輩。」 声も震えてる。 無理させたいわけじゃない。 だけど、本当は泣きそうになってる先輩を抱きしめたい。 「今日は俺、ソファで寝ますね。」 「え…」 「先輩のこと心配だけど、体に負担かけたくない。」 「……わかった。」 「おやすみなさい、先輩。」 今日の先輩は、また不安定な頃に戻ってる。 だから、明日ゆっくり話を聞こう。 そう思ってソファで横になったけど、心配でなかなか眠れなかった。

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