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第102話
「風邪引きますよ…。」
「………ごめ…なさぃ…。」
カタカタと震える先輩を抱きしめる。
ゆっくりと背中を摩ると、呼吸は少しだけ落ち着いたようだった。
「先輩、昨日帰ってからなんかおかしい。何かあったの?教えて?」
「……嫌。」
「先輩……」
「……俺だけがいい。城崎は俺だけ見てて…。」
いきなり…?
独占欲を表したような先輩の発言に、頭にはてなが浮かぶ。
俺、何か先輩を不安にさせるようなことしたってこと?
俺は先輩しか見えてないのに。
「出会った時から、俺には先輩だけです。」
そう伝えると、先輩は泣きそうな顔になった。
「愛してます、誰よりも。だから守りたいし、幸せにしたい。」
決めてるんだ。
もしこれから何かがあって、先輩が俺以外の誰かと人生を歩むことになったとしても、俺は必ず先輩を守るし、幸せにするって。
結ばれる相手が俺じゃなくても、できることはあるはずだから。
先輩の幸せが、俺の一番の幸せ。
綺麗事かもしれないけど、本当にそう思ってる。
先輩はゆっくりと息をして、ハッとしたように顔を上げた。
「ご、ごめんっ…!」
「なんで謝るんですか?」
「だって…、城崎びちょびちょだし…。」
たしかに濡れた。
でもまぁ6月だし、服も着てるからそんなに寒くない。
それに、日頃から鍛えてるし。
「大丈夫ですよ。」
「でも…」
「最近の先輩は謝ってばっかり。俺は"ごめん"じゃなくて"ありがとう"とか"好き"とか、そう言ってくれた方が嬉しいんだけどなぁ…。」
「ごめん…。………あ。」
言ったそばから謝る先輩。
先輩の中で、少なからず俺に対して申し訳ない気持ちがあるんだと思う。
それは多分、俺の愛に応えられない申し訳なさ。
俺が先輩のことを好きすぎるだけで、先輩を苦しめたいわけじゃないのにな…。
「謝ってばかりいると、ネガティブになっちゃいませんか?悪いと思ってるから謝るんでしょ?俺、先輩に謝られるようなことされてないし。」
「でも……」
優しいから、同じ分返してくれようとしてるんだ。
でも、無理なんてしなくていい。
先輩が俺のことまだ好きでいてくれてるって、言葉にしなくても伝わってるから。
だから先輩は、俺のそばで笑っていてくれれば、それだけで俺は嬉しいんだ。
先輩の頬を摘み、じっと見つめる。
「リピートアフターミー。ありがとう。」
「……ありがとう。」
「よくできました。」
ちゃんとお礼を言えた先輩をくしゃっと撫でる。
我ながら舐めた態度取ってるよなぁ。
でも、部下じゃなくて恋人だからな。俺は。
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