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第105話

服の袖で先輩の涙を拭っていると、先輩は不安そうな顔で俺の後ろを確認した。 「城崎…っ、誰もいない……?」 「え?」 「さっきリビングに誰かいた…?」 どういうこと? 俺が誰かと一緒にいると思ったのか? 「いないよ?俺一人だけ。俺たちの家だよ?俺と先輩しかいない。」 「……そっか。」 先輩はほっと息を吐いて、くたっと俺に体を預けてくる。 怖がらせないように、優しく尋ねる。 「誰かいると思ったの?」 「………ぅん。」 「俺だけだよ。大丈夫。」 そう伝えると、先輩は頷いていた。 やっぱり誰かいると思ったのだろうか? もしかして、俺の声が漏れてた…? 俺が一人で抜いてるって考えには至らなかったのか。 先輩以外に興奮しないって、何度も言ってるのにな…。 抱きしめて頭を撫でながら、先輩に聞いてみる。 「心配だから一緒に寝ていいですか?」 「………無理。」 普通に断られた。 先輩のメンタルが弱ってるからこそ、そばに居たいんだけど…。 今の俺がいると、逆効果なのかもな…。 「そっか…。部屋で寝るの?」 「……うん。」 「鍵は開けててね?閉めたらドア壊しちゃうかもしれないから…。」 先輩はこくんと頷いた。 洗面所に連れて行き、顔を洗うように促す。 本当は体を拭いてあげたいけど…。 「先輩……、本当に一人で寝るの?」 「うん……。」 「近くに俺が座ってるだけでも嫌?」 「うん……。」 部屋に入る先輩を引き止める。 先輩がまた一人で泣いてしまうのではないかと、どうしてもそれが気掛かりで…。 「おやすみなさい…。眠れなかったら、いつでもリビング来てくださいね?」 「ん…。おやすみ。」 ドアを閉められ、俺は廊下に座り込んだ。 不安にさせるくらいなら、自慰なんて我慢できた。 まさか先輩が起きてるなんて…。 それに、そんな不安にさせるなんて思ってもみなかった。 気をつけないと…。 先輩が辛くなるようなことだけは、絶対にしたくないから。 一時間ほど経っても先輩が起きている様子はなくて、ほんの少しだけドアを開けて中を覗いた。 先輩はぐっすりと眠っていて、ホッとしてリビングに戻る。 前の一件に関しては、きちんと話してからは先輩の震えとか無くなった。 だから、今回も原因さえ分かれば、その不安を消すことさえできれば先輩の症状は治るはずなんだ…。 先輩のことが気になって起きていようと思ったけど、昨日もあまり眠れなかったせいか、俺はいつのまにか眠ってしまっていた。

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